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第1話−必然のデアイ

 その国は、砂漠の中にあった。
 市場の一角にある一軒家。亡き父と共に写った写真に語りかける少年、小狼。遺跡の発掘調査をしながら生計を立てている。
 扉がノックされる。ドアを開けるやいなや、飛び込んできた少女、サクラ。クロウ国の王女であり、小狼とは幼なじみである。彼女は発掘現場から彼が戻ってくるのを心待ちにしていたのだが、再び夜には発掘現場に戻るとの話を聞いて肩を落とす。そんな彼女を、小狼は市場への買い出しへと誘った。
 城を抜け出してきたために、姿を隠しながら道を歩く彼女。果物の露店を見つけ、売られているリンゴに目がとまる。彼女の正体が分かった露天商は、リンゴを持って行かないかと薦める。周囲の人たちも、そこにいる少女が誰なのか分かってにわかに人だかりができる。その騒ぎを察知して、警備隊が駆け寄ってくる。捕まれば、城に引き戻される…。不安な瞳を向けられた小狼は、サクラの手を引いて全力で走り出した。
 なんとか振り切った二人は、街外れの高台で腰を下ろす。二人の出会いを振り返りながら、サクラは小狼に城への引っ越しを持ちかける。だが、小狼は身分の違いを理由に、やんわりと断る。王族と、市民。二人の間には、目に見えぬ壁が存在していた。
 場所は変わり、クロウ城。抜き足、差し足、王である兄・桃矢に見つからないよう自室へ戻ろうとするサクラ。「丸見えなんだよ」と妹を呼び止める桃矢。桃矢にとって、彼女が先刻まで忍び会っていた小狼は、目の上のたんこぶのような存在だ。サクラをからかう桃矢たちの元に、歩み寄ってきたのは神官・雪兎。桃矢と雪兎もまた、身分は違えど幼なじみである。小狼が発掘をすすめる遺跡の報告に来た雪兎。からかいがすぎて自室へと走り去ったサクラを横目に、桃矢は雪兎と、妹たちが背負う運命について話し出した。
 先見(さきみ)のチカラを持つ雪兎。彼は、小狼がサクラの「運命の人」であること、サクラが持つ不思議なチカラを持つこと、それ故二人に困難と波乱を呼ぶことを知っていた。
 「鏡に映る虚像が如く、偽りの時を生きる者よ」。
 薄暗い室内。玉座に腰掛ける厳つい顔の男と、そばに控える女性。すべては今より始まる…。それは、あたかもこれから小狼とサクラに課せられる、困難な旅の始まりを告げる一言のようだった。
 場所は変わり、ニホン国。天守閣で、月光を背中に浴びながら高笑いする男、黒鋼。姫を守る立場にありながら、猛者を追い、殺生に快楽を求める彼の姿を、もっとも憂う姫、知世。そこで彼女は一つの決断を下す。この世界ではない場所へ、黒鋼を旅立たせることを。黒鋼の意とは無関係に、知世は黒鋼を異世界へ送り出す。
 セレス国。高台の上に、その城がある。城の中にある深い池。水面に飛び出る白い肌の魔術師ファイ。その池に「アシュラ王」を沈め、封印をした彼は、自覚していた。自分がこの地、その世界にいられないことを。ファイは自ら手にした杖で呪文を記す。異世界へ旅立つための、法術を。
 そして、クロウ国。ベランダで、遺跡を見つめながらたたずむサクラ。耳を澄ますと、遺跡から何かの音が聞こえてくる。不思議な音色に心を奪われた彼女。次の瞬間、その身は遺跡の地下にあった。
 その遺跡には、発掘調査の途中の小狼がいた。目の前の床に描かれているのは、見慣れぬ紋章。横を見ると、そこに居ないはずのサクラの姿が。うつろな瞳で、彼女は紋章の中心へと歩み出す。そして、手をかざすと…、紋章が描かれた床は2つに分かれだした。いざなわれるように、サクラの身体は宙に浮き、そして地下へと消えていった。
 彼女を追う小狼は、さらに不思議な光景を目の当たりにする。壁の紋章を背に、宙に浮かぶ彼女の姿。次に、彼女の背中からに光り輝く「翼」が生え出でる。身体が壁に取り込まれようとしたとき、ジャンプした小狼の手がサクラの身体を捉えた。難を脱したかに見えるも、背中の翼は無数の羽根へと姿を変え、天高く舞い散っていった。
 遺跡の外では、異変を察知した桃矢と雪兎が、いずこからともなく訪れた刺客を相手に戦っていた。小狼に抱きかかえられたサクラを見て、異変に気づいた二人。雪兎は二人の記憶を読み取った後、こう語る。
 「背中から飛び散った羽根は、姫の心。生まれてから今日までのすべての想い出が、すべて消えているのです。そして、飛び散った姫の心は、すでにこの世界には…ない。」
 サクラのために、自分ができることは何か…。その答えに、雪兎は魔法を発動させながら、答える。
 「これから、別の世界に住む人のところに、あなた達を送ります。…同じチカラを持つ、あの人の元へ。」
 そこには、4人の人物が立っていた。真ん中に立つのは、唯一サクラを救う手だてを持つという、次元の魔女・侑子。
 時を同じくして、小狼とサクラが立つ横に、別の2人の姿が現れる。異なる事情の下、一同に会した6人を前に、小狼は懇願する。
 「お願いです!サクラを助けてください!」
 降り出した雨の下、彼らを待つ運命は…。