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第12話−暖かなエガオ

 次に降り立った世界は、深い森と、ただただ大きな湖だけがある国だった。
 サクラの羽根の有無をモコナに尋ねたファイ。モコナは湖の中から強い力を感じる、という。
 素潜りで湖底を散策する小狼。そのときサクラは、湖畔で一人燃える炎を見つめながら取り戻せた記憶を反芻していた。
 誕生日会の光景。兄・桃矢、神官・雪兎と共に同席していたはずの、「もうひとり」。誰もいない椅子に、嬉しげに話しかける、サクラの過去の記憶。…その話を聞いて、「欠けないもう一つのパズル」を持つ小狼もまた、サクラとの出会いを思い出していた。
 小狼は、養父・藤隆と出会う前の記憶を失ってしまっていた。そのことを聞いたサクラは、彼に一つの提案をする。
「小狼君の誕生日は、私と同じ4月1日。…それに、前のことを覚えて無くても、これからは私が覚えてるよ。」
これまでに接した人とは違う無邪気な振る舞いと暖かな笑顔。それは、小狼の心にある凍土をゆるませるに十分だった。
 その時。湖の水面が不意に明るく灯る。再び湖へと潜った小狼。しばらくして、水面に顔を出したのは…大きな大きな、不思議な魚だった。
「オマエはどうして、そこにいる。」
その問いを前に、再び過去の記憶に引きずり込まれるサクラ。そして、そのまま彼女は意識を失ってしまう。
 
 しばらくしてサクラの元に戻ってきた小狼。横たわるサクラを前にするファイ、そして黒鋼。
 ファイは小狼に語りかける。「もっとすごいピンチだってあるかもしれないけど、探すんでしょ、サクラちゃんの記憶を。…だったら、もっと気楽にいこうよ。辛いことはいつも考えなくていいんだよ。忘れようとしても、忘れられないんだから。キミが笑ったり楽しんだりしても、誰も小狼君を責めないよ。…喜ぶ人はいても。」
 その時、ちょうど意識を取り戻したサクラ。湖に飛び込もうとする彼女を制止する3人。小狼は、サクラに湖底へのミニトリップを持ちかける。
 湖の中には小さな小さな街が存在した。その街を照らす光は、さきほどサクラに語りかけた巨大な魚。魚は再び問いかける。
「オマエはどうして、ここにいる。何のために、ここにいる。」
わたしがここにいるのは…。サクラは胸のうちに、その答えを導き出せた。
 二人は怪魚から得た鱗を手に、地上へ浮上する。
 その一部始終を、黒鋼達に話した小狼。だが、黒鋼は「ありえない」と信じようとしない。小狼はこう話す。
「目に見えることだけが、すべてじゃありません。世界には、誰も目にしたことのない不思議が、たくさんありますから。」
 モコナは、先ほど感じた強い力がこの魚の鱗から感じると話す。どうやら羽根はこの場所にはない…。
 ファイはサクラに語りかける。「これからどんな旅になるかわかんないけどさ、楽しい旅になるといいよね。…せっかくこうして出会えたんだしさ。」
「できることは、一生懸命やります。よろしくお願いします。」深々と頭を下げるサクラ。「何もしなかったら、ずっとそのままだもん。たとえ小さな事でも、それが小さな一歩でも、それが未来につながるから。」幼き日のサクラが、小狼に言った言葉を思い出しながら、たとえ記憶を失っても、サクラはサクラなんだと実感した小狼。
 
 再び異世界へと旅立つ4人+モコナ。羽根が無かったこの世界でも、小狼とサクラの表情に翳りはない。…この国が、大切なものを思い出させてくれたのだから。