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第30話−哀しいキセキ

 ピッフルワールドで取り返した記憶の羽根。それはサクラにとって、「かけがえのないな小さな命」の記憶だった。
 幼い頃、小狼から手渡されたおみやげ。「砂兎」という、愛らしく鳴く動物だった。しかし、想い出のページにいない「大切な人」。違和感を感じつつ語るサクラを見つめるファイと黒鋼。二人はそんなサクラと小狼の姿を見て複雑な思いを抱く。
 移動した先のその世界で、サクラの羽根はすぐに見つかった。だがそれは、巨獣の角に秘められたものだった。咆哮を放ち、飛び立つ獣。それを追う若者たち。彼らはかつて、サクラの祈りによって息を吹き返した若者たちだった。彼らが羽根を追う理由は一つ。せっかく取り戻した魂も、次の新月で再び土に帰するからだ。恋人と、家族と、両親と。大切にしたい人たちがいるからこそ、彼らは「死にものぐるいで」羽根を取り戻そうとする。小狼たちは、羽根をサクラの元へ取り戻す代わりに、彼らの生をより確実なものとするべくドラゴンと対峙する手助けをする。
 
 戦いの末、小狼の剣技で羽根を奪い返す。それを手に、神殿で再度祈りを捧げるサクラ。だが、願いむなしく、彼女は変えられない条理を前にする。失われた命は、決して蘇ることはない…。奇跡は、神殿に祀られる神と羽根の力、そしてサクラの祈りが1つになって起きたものだった。羽根が再び彼女の元へ還るとき、彼女はまた一つの記憶を取り戻す。それは、どれだけ泣いても、どれだけ願っても、失われた砂兎の命が蘇ることがなかったという、悲しい過去…。
 
 再び命が無に帰する夜。小狼たちは、もう一つのキセキを目にする。それはドラゴンとの戦いを共にした空汰と、その妻・嵐との別れだった。空汰の後を追って神殿に入った嵐。だが、その結末は空汰と変わらぬものだった。サクラの願いにより、共につかの間の生を取り戻した二人。そして…軌跡を一つにしながら、二人は夜の星空へと消えていったのだった。