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第35話−ふたつのキオク

 サクラは、夢を見ていた。中天に浮かぶ月の下、刃を相まみえる阿修羅王と夜叉王。拮抗していた実力が、阿修羅王の一振りで崩れる。右目に傷を負った夜叉王。阿修羅王は懸念していたことを確信に変える。
 その夜、修羅国城の回廊に、阿修羅王は目を疑う光景を見る。月の城でしか相まみえることができないはずの夜叉王が、そこにいたのだ。阿修羅王は右手を伸ばし、彼の頬に沿える。そしてそのまま体を彼の元に寄せ、涙をこぼす…。
 
 夢から目覚めたサクラ。そこに、月の城での戦いを終えて帰ってきた小狼の姿があった。彼は月の城で出会った、黒鋼とファイらしき二人の事を話す。月の城にいた二人は黒い瞳。それに対して、二人が知る黒鋼とファイの瞳は蒼と紅。二人は離ればなれになった二人の行方を案ずる。
 その時、突如小狼の右目が痛み出す。サクラは、無意識のうちにそっとをくちづけする。「チューだぁっ!」その様子を見たモコナは冷やかす。とともに、侑子から聞いた言葉を沿える。記憶には二つあって、心と体の記憶があるという。無意識のうちに出たその行為は、「体の記憶」ではないか、と。そんな二人のほほえましい様を水鏡を経て眺めていた阿修羅王は、あることを決意する。
 なぜ小狼とサクラが修羅国へ落ちたのか…。それは阿修羅王の願いによるものだった。侑子に願い、対価と引替にモコナを強制移動させ、二人を阿修羅王の元へ送る。それにより、飛王が描いた「予定調和な」旅の軌跡を狂わせる。それは、侑子もまた望むことであった。阿修羅王にはもう一つ、真の願いがあった。だがそれは、侑子に言わせても「重すぎる」ものであった…。
 その夕方。月の城への出陣の時が来た。阿修羅王が率いるのは、小狼と倶摩羅の二人。痛む右目を気にかけさせまいとする小狼に、阿修羅王は小狼に言葉をかける。「秘めるばかりでは何も変わらない。」それは自らにも諭すような口調であった。
 戦場で待つ夜叉王の手勢も、黒鋼とファイらしき二人だけ。夜叉王を見るや、阿修羅王は単身その傍に挑む。
「夜叉王。決着をつけよう。」
 私は、己の願いを叶える。−そんな決意を持って刃を抜いた阿修羅王だが、その剣は夜叉王の胸を深々と、そしていともたやすく貫いた。笑みを浮かべる夜叉王。夜叉王の長い前髪を払い、顔の傷跡を確認する阿修羅王。一瞬寄り添った二人だが、やがて夜叉王はサクラの羽根へと姿を変える…。