トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.57−交わらない線

 地震が起こった翌日、陣社での朝。
 散乱する空の一升瓶の中に、黒鋼とファイの姿があった。
 桜都国での過去から、すっかり酔いつぶれているかと思われたファイ。だが、そこにいたのはシラフのままの姿。
 桜都国の中で酔っていたのは、演技だったのか…?
 黒鋼が疑問を口にする。ファイが桜都国の仕組みを挙げて疑問を解消しようとするが、得心しない。
 本心を決して明かそうとしないファイ。核心に迫ろうとすると、いつも笑みを浮かべてはぐらかす。だが、黒鋼は見逃していなかった。「あの一瞬」を。そして、彼に問う。
 「蒼石とやらがあの夜叉像のいわれを話していて、『阿修羅』の名が出た。その時顔色を変えたのは何でだ?」
 タイミングよく部屋に入ってきた蒼石の前にまたも話題をそらしたが、黒鋼の瞳はずっと何かを見据えたまま。その様を見て、
「…見てないようで、見てるんだから…」
と一人つぶやく。
 蒼石と共にする朝食。ファイが箸使いに苦戦する中、先刻遊花区を襲った氏子達が帰ってきた。威勢はいいものの、中には負傷者も居るようだ。
「いきなり蹴り飛ばして来やがったんだ!子供のくせにすげぇ蹴りだったんですよ!」
 蹴り。その言葉を聞いてピンと感じたファイと黒鋼。思い浮かべたのは彼らのはぐれた仲間、小狼のことだった。
 一方、さほど彼らと離れていない遊花区には、興行にむけて練習する小狼たちの姿が。お客さんの前で演技することに慣れていない小狼は冷や汗がだらだら。一方のさくらはやる気満々。
 いよいよ夜の興行が始まる、幕が上がるまでの間、さくらは一座の仲間、火煉太夫に朝の騒動について切り出した。
 彼女は語る。オーナー、鈴蘭は強い。けれど、素直じゃない。…欲しいものがあるなら、手を伸ばさなければならないのに…。
 そのとき。再び辺りを地震が起こる。それまで眠っていたモコナの目が開く。…不思議な力が発動したときに反応する、あの瞳で。