トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.124−命の対価

 蒼く光る、右の瞳。その輝きが、羽根の在処を探る。
 「…この世界にもう羽根はない。なら、この世界に留まる必要もない。」
 そう呟いた彼の視線は、次の羽根が眠る世界に向いていた。
 一連の様子を、満足げに見ていた男、飛王。彼が飛ばした念は鏡を通して次元を越え、小狼の元にゲートとして現れる。
 左手に携えた剣、そして抱えた一人の少女。その腕を、ほどいた少年。その胸の内は、それまで命を賭して守ってきた女性にすら、注ぐべき想いが乾き干していた。
 記憶を失ったのち、短い旅路の中で培った想いが波打つ少女は、そのか細い腕で少年を引き留めようとした。だが、その涙は焼け付く砂漠に落ちた雨雫同様、彼の心に届くものではなかった。腕をほどき、次元の扉をくぐる小狼。その瞳に、彼女が映ることはなかった。
 
 「…一番辛いときに目覚めさせてしまったね…。」
 失望で倒れ込んださくらを抱き留めた、もう一人の吸血鬼、昴流。長い夢から目覚めた彼は、目前の悪夢を前に己がすべきことを思いめぐらせる。
 その横では、今も悪夢が続いていた。
 降り立った、もう一人の『小狼』。纏った衣の胸の紋に、黒鋼はかつての悪夢、己の母の命が奪われた瞬間を悪夢を思い出す。
 侑子の一言で我に還るも、眼前には瀕死の『戦友』の姿がある。
 ファイが置かれた状況は、深刻だった。眼球をえぐり取られたことに加え、酸性雨がすべてを溶かすこの世界には、薬も医者もいなかった。
 息も絶え絶えの彼は、言葉を紡いだ。
 「オレが生きたままなら…小狼君の魔力も生きる。半分の魔力でも…彼を止められなくなる…。」
 その言葉を聞いた黒鋼。深く静かに煮えたぎる、怒りのエナジー。しかし彼は冷静に、その様子を異世界から見ていた次元の魔女に問いかけた。
 …消えかけた命を、食い止める術を。