トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.181−未来の国

 器だけとなったさくら。そして、元となったさくら。二人のさくらを取り戻すため、再び異世界へ旅立つこと。…三人が決断を下すのに、時間はかからなかった。そして、そのために必要な対価−−−それは驚くべき事に、異世界にいるある男が、己を犠牲にしてまですでに支払っていたという。対価にしたのは、「記憶」。自分の過去、両親の名前、そして対価を支払った行為さえも引き替えに−。
 その男の名は四月一日君尋。過去に『小狼』も彼のために己の「時間」を差し出していた。誰よりも、互いに近い存在。その絆が、動き出す「願い」のため、目に見える形へと姿を変えようとしていた。
 
 侑子は告げた。
 「飛王が居るのは…玖楼国。『切り取られた時間』の中の…ね。」
 四人の旅を異世界で視ていた侑子だが、彼女もまたただの傍観者ではなかった。夢のために人の魂を奪う飛王の手先を、密かに行き先を追跡していた侑子。だが、魔力を持つ者が相手の居場所を知ることは自分の居場所も知らせること。すなわち侑子自身の身にも火の粉を招きかねないことを知りながら…。
 玖楼国。
 カイルが攫ってきたさくらの躯を手にしながら、飛王は満足げな表情を浮かべていた。カイルは尋ねた。元となった彼女の躯はどこか、と。飛王は答える。この写身を創ったあと、滅して消えた、と。魂と躯をどちらも写すことは、容易ではなかった。そのリスクも先読みした答えが、ファイたちを従者として選ぶことだった。
 時空を越えて旅を続けた躯と、さくらの魂。次元を超えるための力に、飛王の手が届こうとしていた。
 日本国。中天に浮かぼうとする三日月。月は闇夜に、そっと光を運ぶ。白鷺城の別々の場所で、三人は物思いに耽っていた。
 つらい過去、つらい旅。
 それでも、彼女は傍にいた。
 時に仲間と共に笑い、時に仲間の傷を心配し、時に仲間と共にがんばり、時に仲間のために涙を流し、そして仲間と一緒に喜びを共有する。
 どんなに深い暗闇の中でも、常に輝いていた彼女。
 そんな彼女を想いながら。男たちは異界へつながる扉が開く瞬間を、じっと待っていた…。