トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.197−二つの命

 圧倒的な力の差を前に、なすすべ無く破れた小狼。飛王のとどめの一撃が、小狼を襲う。小狼の躯は、玖楼国から跡形も無く消え去った。
 次に小狼が目を覚ました場所は、願いを叶えるミセ。彼の、旅立ちの場所だ。間一髪のところで、次元を越える侑子の召還術が彼を救ったのだが、満身創痍で「辛うじて生きている」という有様だ。
 だが、状況は小狼にとって悪夢そのものであることに変わりない。「さくらを守る」という約束を守れなかったばかりか、彼女の躯には死の刻印を施され、不本意とはいえ自らは玖楼国から「逃げて」きた。さらに、さくらに施された呪いを解くには、「誰かの命を引換に」しなければならないほど容易ならざる状況である。
 状況を打開するには。…まず、少なくとも玖楼国に戻ることが先決だ。それから、呪いを解く術を見つける。あの日願った、二人で手を繋ぐことができる未来のために。だが、今の自分には玖楼国へ渡る術がない。…痛感する、己の不甲斐なさ。
 彼は、一つの決意をする。自分が差し出せる対価と引換に、侑子に再び玖楼国へ渡してもらうことを。
 侑子は答える。
 「あたしが送るのは、片道だけ。
  今、玖楼国には次元を渡れる者も渡せる者もいない。
  つまり、何か別の方法がない限り、貴方は元いた世界へは戻れない。」
 さらに、彼女は続ける。
 「貴方の次元にいるお父様にもお母様にも、
  貴方を愛する人たちにも、もう会う事は出来ないかも知れない。
  それが、対価。」
 暖かな、家庭。尊敬する、両親。それらを全て捨て、単身で異国へと旅立つ。
 見返りは、わずか6日を過ごした少女の笑顔と、彼女と交わした「約束」が守れることだけ。
 …それでも、彼の決意はすでに固かった。
 再び眠りに落ちた小狼の横顔を見ながら、侑子は呟く。
 「貴方の選択で、未来はまた一つ決まった。
  貴方は更に選んだ。今ある幸せと別れて、玖楼国に戻るという選択を。
  そして、貴方はまた選ぶ事になる。
  ………どちらを選んでも、辛い未来を。………」