トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.209−魔王と傀儡

 「クロウ・リードの血を引く者。死しても、その躯のみでも利用価値はある。」
 オリジナルである小狼の剣術、魔術を共に凌駕し、ついにとどめの一撃を刺した写身・小狼。飛王は、忠実な下僕が成し遂げた戦果に悦に入っていた。
 「写身の躯が滅したら、今度はその魂を本体の躯に移すとしよう。
  そして、存在(あ)る限り我が願いのために、虚無(む)となるまでな」
 骸となった小狼の躯を手にし、新たな手駒とする。飛王は、己の望みに対してどこまでも貪欲であった。圧倒的な力の差で場を制した写身・小狼の元へ、飛王は自ら次元を隔てる『壁』を裂き、身を乗り出した。…「完全なる勝利」がもたらした、戦利品を手にするために。
 写身は、従順だった。求められるまま、小狼の躯を飛王の前へ差し出した。
 飛王は、一つだけ誤算をした。
 それは、強大な魔力と剣技を手にし、無縁の人々を殺めながら羽根を追う写身に、いつしか「自我」が芽生えていたことだった。
 「小狼を殺したら、全部終わってしまう!」
 同じく写身だった、『もうひとりのさくら』が残した言葉の種。それは、彼の胸の中で根を張り、芽吹いていた。
 戦闘不能の小狼を、右脚で自由を奪う。そして、手にした剣をまっすぐ下に貫く。飛び散る、鮮血。しかし、刺し貫いたのは小狼の心臓ではなく、自らの右脚。小狼は…、写身の懐に抱えられつつ、「その時」を待っていた。そして…
 写身が手にしていた、長剣・緋炎を。小狼は、それをまっすぐに飛王の胸へと突き立てる。
 「…謀った、か」
 掌に付いた血糊を目にし、事態を把握した飛王。驚愕の表情は、ほどなく激昂のそれへと変わる。
 「…傀儡の分際で!」
 取り出した剣で、小狼を襲う。その鋒から小狼を守ったのは…、他ならぬもう一人の小狼だった。身を挺してかばったその胸には、深々と刃が突き刺さっていた。それでも彼は、表情を歪めることなく、左手をまっすぐ横へ伸ばす。そして…、伸ばした指先から、場を埋め付くさんとする魔術が解き放たれる…!