トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第46回

《xxxHOLiC・戻》第46回
  ヤングマガジン:2015年50号:2015.11.09.月.発売
 
君尋は,静を縁側に残し,下げた湯飲みをのせた盆を持って,廊下の角を曲がった。
 
“がしゃん”,そして“カラン カラン”
角の向こうから静の声がかかった。
「なんだ…」
「胸が」
答えた君尋は,ころがったものはそのままに,片手を床について片手で胸を押さえ,座りこんでいた。
その左目に,ぼんやり人影が2つ……。すぐにはっきりしてきたそれは,片やそでなし半天のような上っ張りで傷だらけ,片やマントをまとった旅姿,2人の小狼だった。
「小狼!?」
「…どちらも小狼,だ」「でも 何故‥‥」
 
「大丈夫か」
角から顔を出して,静が尋ねた。
「おれは」「でも,小狼が…」
言いかけたところへ,
「四月一日!」
大きな声がして,軽快な足音が聞こえた。モコナが,君尋と両ひざをついた静に訴えかけながら,走ってきたのだ。
「今,モコナが! すごくすごく 悲しくて辛い気持ちに なった!」「すごくすごく 心配してる!」「あの時と 同じくらい!」
それは,次空のはざまで,小狼と君尋が,写し身小狼の滅するのを見送ったときのことだった。
 
君尋は,自問していた。
{何故 どちらの小狼もいるんだ…}{過去を見ているのか}{違う}
“どくん”「!!」
何度めかの拍動のせいか,それまで意識の外だったまわりの景色が,目にはいった。2人の立っている大きな岩。あたりに広がる光のきらめく空間。
{どこだ}{ここは!?}
「四月一日!」
その上半身が前のめりになっていくのを見て,モコナが叫ぶ。その体は,静とモコナの前で廊下に倒れこんだ。
 
君尋が顔を起こすと,あたりがまっ暗な中,目の前に,その人は立っていた。
「侑子さん…!」
立ち上がると,笑みを浮かべ,こちらを見つめている。その顔を正面から見た視線は……,下にそれた。
「…夢 ですね」「これ」
「一度弊(つい)えた命は 戻らない ひとは 生き返りはしない」「…例え,魂が同じでも 生まれ変わったとしても」「同じ人生(みち)を歩み 同じ記憶(おもい)を持つことは 決してない」「それは,もう 『そのひと』とは『別人』だ」
だまって見ている侑子に,それでもひとはもう一度逢うことを願ってしまうと,思いをぶつける。
「あの小狼は 偽物なんかじゃなかった」「けれど」「それなら,尚更」「どうして もう一人の小狼は あそこにいたのか…」
闇に包まれ,君尋は,うつむいたまま立たずんでいた。