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戻 第53回

《xxxHOLiC・戻》第53回
  ヤングマガジン:2016年50号:2016.11.14.月.発売
 
君尋が目をあけると,闇の中に立っていた。ただ,まわりには,ぼんやりした光の玉が無数に漂っている。そこに声がかかった。
「久しぶりだね」
振り返って応じる。
「少し前にも お会いしたと」
かすかに笑みを浮かべた,着流しの遥は,迷子みたいなその顔が久しぶりだ,と言う。
「…確かに 途方にくれてるかもしれません」
うつむきかげんになった顔を上げて相手を見た。
「遥さんは色んな事をご存知ですよね」
いったん口をつぐみ,また,開く。
「…座敷童が 『呪謌(しゅか)』になろうとしていて」
遥は,煙草をはさんだ指先を,口元に持ってくる。
「また珍しい『名』を聞くな」
「寺にいて長かったが 『呪謌』を実際目にしたのは 一度きりだね」
「色んな 力のあるモノたちが 欲しがっていて」「その中に」「『次元の魔女』がいると…」「…『次元の魔女』って呼ばれるのは…」
「私は 侑子さんしか知らないね」
煙を吐き出しながら,答えた。
「侑子さん…」「なんでしょうか」
「あんなに捜しても いなかったのに」「待っても いなかったのに」「本当に 侑子さんが…」
心のもやもやは,深まるばかりである。
「君は どうしたいのかな」
まっすぐに言われ,あらためて遥の顔を見る。
「すべては 『誰かがどうするのか』じゃない」「『自分がどうしたいのか』」「だよ」
 
はっと目をあけた君尋。そこは,ふとんの中だった。
体を起こすと,引き戸を少しあけて廊下からこちらをうかがう顔が,2つ。
「おはよ」
“おいでおいで”をすると,
「おはよー」
「おはよー」
あいさつするのももどかしく,マルとモロが,待ちかねたように走ってきて,“ぼふん”とベッドの上に飛び乗り,両手をついた。
「お庭の 四月一日が言ってた樹 お水あげたよー」と,マル。
「あと ハーブも摘んで台所に置いたー」と,モロ。
君尋は,2人を抱きよせて頭に“ちゅ”
「きゃー」
マルとモロは大喜び。
そこへ,
「ごめんください」
声が聞こえた。
「客か」
「着替える 案内しておいてくれるか」
お客さまだとはしゃぐ2人に言いつけると,寝間着の上に,いこう〔衣桁〕の着物を羽織った。
「はーい」
“ぱたぱた”2人はかけていく。
羽織ったヒガンバナ柄の侑子の着物に目をやり,君尋は,つぶやいた。
「自分が…」「どうしたいか…か」
 
「お待たせ致しました」
チャイナドレスの君尋が,その洋間にはいっていくと,椅子に腰かけて反対側を見ていた客が,振り向いた。
「こ こんにちは」
君尋は,驚いて目を見開き,
「え!?」
「え?」
不審げに問いを返したその少女,洋装ながら,顔も姿も座敷童にそっくりだったのだ。
「あ…いえ あんまり 知ってる子に似ていて…」
テーブルの向かいに腰を下ろした君尋が,言いつくろう。
「…すみません 驚かせてしまって 今日はどんな御用で?」
少女は,視線を落とした。
「あの…」「最近 不思議な夢を視るんです」
「どんな夢を?」
「鳥籠に閉じ込められている夢です」