トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第172話

  ヤングマガジン:2009年8号:2009.01.19.月.発売
 
「貴方は『知りたくない』と言いましたよね」「他人の事を そして,一番自分の事を」
君尋は目を見開いている依頼人に語りかけた。
自分を「知りたく」ないのは「気持ち悪い」からではなく,「怖いから」ではないか,だから自分で作ったものは食べたくないのではと。
こきざみに震える依頼人。
「何故,そうなるんですか!?」「私はただ食べたくないだけで‥‥!」
「おれが そうだからです」
君尋はおだやかに応じた。
自分が作った料理の味がわからないということは,何が好きかだけでなく,どういうものを食べてどういう人と過ごしてきたのか,それがわからないことなので,すごく怖い。
彼には,自分のことを知る以上に知らないままでいるほうがもっと怖いことだった。
「でも 作ったものを食べて 美味しいって言ってくれる人達がいるから」
「おれには味は分からないけど」「あの人達を信じてるから」
 
「どう して 会ったばかりの貴方に」「そんな事言われなきゃいけないの!」
依頼人は,話をさえぎって叫ぶが……。
「もう会えないかもしれないからです」
「今,この瞬間と同じ瞬間は二度とない」「この店で色んなひとに出会ってそれが理解(わか)りました」
そして,侑子の受け売りだと言いつつ,「この世に偶然なんてない」「すべては必然だから」と続けた。
こうやって会えたのだから,いっしょに料理して食べて,あなたのことを知りたい。じぶんのことも知ってほしい。そう話しながら手をさしだす。
「だから‥‥」「おむすび作りましょう」
 
がしゃーん。居間まで聞こえた突然の音に驚く,ひまわり・小羽それに蒲公英。
廊下に出た小羽が見たのは,「待って下さい」とだれかを追いかける君尋だった。
しかし,玄関のドアが音を立ててしまり,君尋は取り残された。
「四月一日君!?」ひまわりが廊下の角から声をかける。
「大丈夫?」小羽が見上げる。
「うん‥‥ おれは,ね」答える君尋を,静が横目で見ている。
君尋は,かすかにほほえんでいた。