トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第189話

《xxxHOLiC・籠》第189回
  ヤングマガジン:2009年47号:2009.10.19.月.発売
 
君尋は,テーブルに置かれた三味線を見つめた。
「この三味線‥‥」「内(ナカ)に居(イ)ますね」
「ええ」
客の女性が答える。
「というより」「まだ生きてる と言ったほうが良いかしら」
それは,この三味線に皮を使われた猫のことだった。
「三味線の皮に使う猫は雌が良いと言われてるの」「傷がついてない綺麗な皮をもった 綺麗な猫」
「‥‥それは綺麗な猫だったんでしょうね」
君尋がそう応じたとき,女性の指が弦に触れた。
びぃーん,音が響く。
「喜んでるわ 貴方を気に入ったみたいね」
「だと良いんですが」
「本当よ」
女性はにこやかに言った。
良い音(コエ)だったのに,十日ほど前から黙りこんでしまったという三味線。
「こうして返事をしてくれたという事は」「やっばりこの店に連れて来て正解だったのね」
そう言ったとき……。
びぃーん
触れていないのに三味線が鳴る。君尋は驚いた。
「ほうら」
「本当ですね」
2人は笑顔を見合わせた。
黙ってしまったわけを聞かれ,女性は三味線を抱き寄せる。
「この子は綺麗なままこの姿になったから 逢いたいのよ」「恋しいモノに」
 
夜。
カーペットの上でそれぞれ膳を置き,ワインを飲む男2人。すわって飲む静と寝そべっている君尋。
三味線は,天蓋(てんがい)付きの椅子の座面に立てかけてあった。
 
「どういう事だ」
尋ねる静に,腹ばいのままグラスを持ち上げて,君尋が答える。
「三味線に使う猫っていうのは出来るだけ無傷がいいらしい」「だから 雌猫の場合は未通が望ましいと」
「雄猫に,交尾中に傷つけられる事があるからか」
「淡々と言うなよ」
「浮かれて言えば良いのか」
そう言いつつ,静が君尋のグラスにワインを注ぐ。
「もっといやだ」
と,君尋。
「実際 鳴らないんだろう」「あの三味線」
「あの後は全く ね」
静の問いに答えると,タバコ盆のキセルに手を伸ばした。
「逢えなきゃ鳴らないって事だよなぁ」「恋しいモノに」
つぶやくように言うのを,静が横目で見ている。
「猫の恋しいモノねぇ」
体を起こしてあぐらをかき,頭の後ろに手をやる君尋。
「素直に考えるなら猫だろうがな」
静がそう言うと,煙をはき出してことばを続けた。
「そりゃ,直接聞いた方が早いな」
「夢で」
ふっと笑う君尋。静は,そんな相手にまゆをひそめた。