トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第191話

《xxxHOLiC・籠》第191回
  ヤングマガジン:2009年50号:2009.11.09.月.発売
 
依頼人の女性と君尋は,和室で撥(ばち)を間に向かい合ってすわっていた。その横には三味線を座面にたてかけた天蓋(てんがい)付きの椅子。
 
「触ってもいいかしら」
依頼人のことばに,君尋は立ち上がり,彼女のわきに回ると右手を目の前の撥に導いた。
 
「この撥‥‥」「黒くて 蝶が1匹飛んでる‥‥」
「その通りです」
驚く君尋。
「この店に いたのね」
依頼人は,撥をいつくしむように胸にいだいてから元の箱に戻した。随分昔にこの撥を使ったことがあったのだった。
「あの時 あの子は本当に嬉しそうで 良い声を聴かせてくれたわ」
ただ,この撥はほかの三味線弾きのものだった。もう会えないそのひとはとても綺麗でやさしい指をしていた,と言う。
 
撥に触れていた彼女の手が,ぴくっと浮いた。
「撥‥‥」「どうかしましたか」
いぶかる君尋に,いつからここにあったのか,彼女は尋ねた。前店主の時からでわからない,と君尋が答える。
「そう」「なら 貴方に許して貰えるか伺っていいかしら」
「許し」「ですか」
 
依頼人は,羽織を脱いで三味線をかまえる。そして……。
てぃ…ん
音が響いた。
 
君尋の目は蝶を見ていた。
そこは夢の中。蝶が飛んだ先にはこの間の夢の女性がいた。蝶は,その紋の羽織を着た男性の姿に変わる。女性は喜びをあらわにし,2人は抱き合った……。
しかし,男性の姿にひびが走る。男性の像が割れる音で,君尋は引き戻された。
 
「やっばり割れてしまったわね ごめんなさい」
撥は粉々になっていた。
「いいえ おれが構わないと言ったんです」
この撥がもう一度奏でられたら逝ってしまうとこの子は知っていた,と依頼人。
「だから 鳴らなくなったんですね」
「そう」「最後に会いたくて 恋しいモノに」「だって」
「女は」「好いた男(ヒト)の最後の女で居たいものですもの」
 
「有り難う御座居ました この子の願いは叶ったわ」
手をついて頭を下げる依頼人に,君尋は店の倉庫を探しただけと言う。
彼女は思い直したようにことばをついだ。
「貴方 この子の事を 綺麗な猫だったんでしょうねと言ってくれたでしょう」
三味線に猫の皮を使うという話が出たときのことだった。
「楽器の為とはいえ猫や犬の皮を剥ぐのを 貴方は本当は受け流せるようなひとではない そうね?」
「そんな事は‥‥」
「でも わたしは三味線の奏者で」「それをわたしに気付かせて困らせたり悲しませたりしたくなかったから ね」
「‥‥買いかぶり過ぎです」
君尋は,さらっと否定した。