トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第211話

《xxxHOLiC・籠》再開第7回(第211回)
  別冊少年マガジン:2011年1月号:2010.12.09.木.発売
 
「ここのところ ずっと雨が降らなかったから まさに恵みの雨だな」
着流しに上っ張りで傘をさし,君尋は,庭を見て回っていた。
「そうか みんなも嬉しいか」「そろそろ冬支度もさせてやらなきゃな」
木々に語りかけていると,何かを感じたように茂みがざわめく。横を見ると,着物に和傘という女の後ろ姿が,視線の先にあった。
 
店の庭に女性が現れたことを,静は,君尋やモコナとの食事中に知った。話すまえに消えたが願いをかなえにまた来るだろうと,聞かされる。
 
きょうも雨。傘を脇に立てかけ,君尋は縁側で煙管を吸っていた。
ふと,下駄をつっかけ,傘をさして歩き出す。茂みの手前に,同じ後ろ姿があった。声をかけられて振り向いた女のほおには,涙の筋。
「貴方は‥‥」
「この店の主人です」
ここは願いをかなえる店,来たということは願いがあるということだと言われ,涙のあふれる目を閉じる。
「あの方が‥‥おいで下さらないのです」「約束して下さったのに」
「この傘の中でなら,と わたしの手を握って下さったのに」
 
編み物をしている君尋のそばで,静は毛糸の輪を両腕で支え,モロが糸玉を作っていた。その間の毛糸を体にからめるモコナに,ジャマばかりとあきれるマルとモロ。
願いは「あの方に逢いたい」だ。君尋は静に言う。
 
また,雨の日。
約束をたがえるなど決してない方なのに,気にさわるようなことをしてしまったか,忘れられたかと,女はなげく。
傘は,この中でなら人目を気にせず逢えるからと,当人がくれたと言う。君尋は,傘布の外側にはりついている札らしきものに目をとめ,説明する。
「その符(フダ)」「それは,蛇(ジャ)の目(メ)です」「覗きに対する護符で これを貼っているとひとやアヤカシからのぞかれずに済むといいます」
そして,誰にも見られずにすむというのになぜ来ないのかという訴えに,付け加える。誰にもというわけではなく,描いてある目が先に覗いているからほかのものは覗けない。そういう符だから外側に貼っても効力がない。
そして,手を伸ばして符の上にかざす。符は,はがれて傘の内側に回りこみあらためて傘布に付着した。「目」が,幾何学的な同心円から何か生き物のそれのように変化する。
「では これであの方は‥‥」
間も置かず,その後ろに男の姿が現われ,彼女の肩を抱いた。
「やっと お逢い出来ました」「あなた‥‥」
向き直り,男の胸に顔をうずめる。そのほおを伝うのは,うれし涙。
「有り難う」「御座いました」
手元から手が離れ,傘が地に落ちる。そのわずかの間に,2人の姿はかき消えていた。
傘を見下ろして,君尋は話しかける。
「‥‥そちらでは お幸せに」
 
夜,三日月が空にかかっている。
「で それが対価か」
「ああ」
彼女と会っていたときのチャイナドレスのままの君尋が,和傘を開いて見せる。静と2人,縁側での晩酌だった。
覗こうとする対象を見張るものだと勘違いするのか,蛇の目の符は貼り場所を間違えやすい。貼り替えたらすぐ相手が現れたから,最初の貼りかたは,ただの間違いだろう。
「お互いにずっと逢いたかったのは確かだ」
傘を持ったまま話す君尋に,静が尋ねる。
「人目がある中では逢えない関係だったのか」
「かもな」
「けど 夜目,遠目,傘の内 ってな」「どれも はっきり視えない状態って事だろう」
だから,2人の関係を見通すのも野暮だろう,と言う。
「それに」「願いの対価は確かに貰ったしな」
庭に降り立って傘をさした君尋は,それが気に入っているようだった。