トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第8回

《xxxHOLiC・戻》第8回
  ヤングマガジン:2013年25号:2013.05.20.月.発売
 
静に続いて君尋も階段を登り,君尋の部屋の前を通り過ぎたその先,目的の部屋の前に来ると,静はドアノブに手をかけた。
「開けるぞ」
中はまっくら。静は壁のスイッチを押した。
天井の明かりがつくと,そこにあったのはがらんとした部屋。部屋の向かい側,窓のすぐ手前の畳に,ワイドテレビがぽつんと置いてある以外は……。
「なんだ,やっぱり空き部屋かよ ここ」
「そんな感じだったのか」静が尋ねる。
「ひとが出入りしてる気配もなかったし しかし テレビ,残してくって 贅沢だな,おい」
静は,テレビを持つ余裕はないと言う君尋に,
「持って帰るか」
君尋はあわてる。
「気が引けるし! 侑子さんから依頼された部屋にあるもんだし! あとで何があるか 恐ろしいわ」
静は,靴を脱いで足を進める。
「って, いいのかよ,本当に勝手に入って!!」
「そう言われてるからな」言いつつ,中へと歩く。
{うわー}「侑子さんー! あとで管理人さんとかに怒られたら マジで恨みますよー!!」
 
畳にすわっている2人。君尋は正座,静は片ひざを立てて足をくずしている。
いつまでこうしていると聞く君尋に,何か起こるまでだがおこらないならそれはそれでいいと静。
「おまえって,ほんっっっとに 大体の事 どうでもいいな!」
「どうでも良くねぇこともある」
静は,君尋を見つめた。
「…なんだよ」
その問いにかまわず,静は腰を浮かせ,テレビに手をのばす。
「ちょ! そこまで勝手に!」
「黙って座っててもしょうがねぇだろ それに,確か九軒(くのぎ)が言ってたドラマ 見たいっつってただろ」
 
「で」「どうなったの?」
尋ねる侑子は,腹ばいでざぶとんに両ひじをつき,あやとりをしている。
「ドラマは まあ,面白かったんですけど」
君尋は,前にさや入りエンドウのボウルを置き,あぐらをかいた足の上にもうひとつボウルを置いて,豆のさやむきをしている。
「なんか… 終わりかけに」
 
「ひまわりちゃん こういうドラマが好きなのかー 推理もの好きって すごいなー」
感心していた君尋は,静に,言ってたやつ犯人じゃなかったなとやりこめられ,
「は 初めてみるドラマなんだから しょうがねぇだろ!」
えり元をつかみ,首を揺さぶった。そのとき,声が。
「ねぇ」
静の顔を見ていた君尋は,
「はい」
顔を上げて思わず返事をしたのだった……。
 
テレビからだったと思うが,と君尋。
「…でも,もうエンディングで 曲,流れてたし」
「隣はおれなんで」「誰もいないし」「反対側は」「角部屋だから 勿論いないし」
じっと君尋を見つめる侑子。
「で でも,きっとテレビですよ!」{うん!きっとそう}「おれ,その時ちょうど 画面見てなかったし!」
「…そう」
侑子はつぶやく。
さやだけのボウルにむいた豆がいっぱいのボウルを重ねてかかえ,すくっと君尋が立ち上がった。
「さーて! 今日の夕飯は 豆ご飯ですよー!」「西京(さいきょう)焼きと,あと 塩辛も食べごろですからねー!」
侑子は,あやとりのかっこうのまま,何かの気を伴いながら歩み去る君尋の後ろ姿を,見つめていた。