トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第13回

《xxxHOLiC・戻》第13回
  ヤングマガジン:2013年37号:2013.08.12.月.発売
 
店の縁側,あられもないスリップ姿の侑子が,仰向けであえいでいた。
と,急に起き上がって,「あついー!!!!!」
庭に出ていたマルとモロは,面白がりながらも,2人してうちわであおいでくれる。
麦わら帽子の君尋は,庭から,叫んだら体温が上がってもっと暑くなるだけと言うが。
「だって だって このあつさ!」「叫ばずに おられようか!」
侑子は,わめきながら,ごろんごろんと縁側を転げ回る。
ヤケクソか,のびあがって叫ぶ―マル・モロを従えて。「うわー!」
次の瞬間には,こん倒……。
「ほら,言わんこっちゃない」
洗濯物を取りこみながら,君尋が話す。
「ちゃんと水分とって。お酒は水分じゃねぇっすよ お茶もほどほどに」「そこの保冷マグに 梅水はいってますから」
マルとモロに,水に梅干しと梅酢を入れたもので,こんな暑いと塩分も補給しなきゃ,と額の汗をぬぐいながら,君尋は説明する。2人は,目をきらきらさせて,
「四月一日 すごいー」
侑子のほうは,うめきながら,2人が入れてくれた梅水のカップを手に取った。
「もう,ここ熱帯地域でいいんじゃないかしら」
「まぁ 雨とか ほんと急に降りますもんね…」
そこへ……,“ポッ”“ポツ ポツ”“さあ”あっという間にどしゃ降り。
君尋は,2人を建物の中に追いやり,シーツを物干しざおから一気にはぎ取る。
 
洗濯物の山を縁側に置き,やりなおしせずにすんだとひと息ついている君尋に,侑子は,
「もう一回,洗濯しなきゃならない上に 更に,おさんどんが増えるなんて 四月一日がかわいそうですものね」
「今,すっげぇ棒でしたよね」{あれ?}「更に おさんどんて…」
「こんな篠つく雨のあとには …来るのよ」「夜雀(ヨスズメ)が」
君尋は,知っていることを並べる。雀みたいに鳴く妖怪で山道を歩いている人についてくる。雀でなく「蛾」の姿のことも。山犬が現れる前触れとも。
「その,夜雀が来るのよ」
「えええええ」「な,なんか怖そうなんですけど!!」
「ほら」と,雨が小降りになってきた庭のほうを,侑子が指差す。
「わぁぁ!」と,君尋。
 
歩いてきたのは小さな女の子。後ろで結んだ帯の端は,蛾の羽のように広がっている。足元は角形のぽっくりである。
いきなり,侑子に抱きつき,
「やっと来れましたー!!」うあああんと泣き出した。
にこにこ顔であやす侑子。雨は,もうすぐあがりそう。
 
君尋が,氷や切ったレモン,タンブラーそして角瓶などをのせた角盆を運んできた。
「お こんな蒸し暑い雨の日は やっぱハイボールよねー」
夜雀を脇にすわらせ,お待ちかねの侑子は,氷の上から“がば”と角を注ぐ。
「入れすぎですよ ウィスキー」
保冷マグの中身をカップに注ぎながら,君尋はぼやく。そして,夜雀に,
「梅水なんだけど 飲めるかな 迷子になってたみたいだから 喉,乾いてるかと思って」
涙が両目からあふれ,えぐえぐえぐえぐえぐ,泣き出されて,あわてる君尋。
「あ 甘いほうがいい!? ジャムならあるから ソーダで割ったりも出来るよ!!」
「…欲しいです」の声に,
「ジャムね!」と立ち上がりかけた君尋だが,
「ハイボール」
「えええ!?」
「夜雀,見た目のまんまの年齢じゃないわよ」「あたしの知り合いの中じゃ トップ10に入る長生きさんよ ねー」
侑子から,氷とレモンを入れたタンブラーを渡された夜雀は,まだぐずりつつも,左手の角の口を右手のタンブラーに……。
「ええええ!?」
“どぼーっ”
「夜雀は,あたしの知り合いの中じゃ トップ5に入る酒豪だもん ねー」
「えええええええええ!?」とてもついていけない君尋。
「で」
侑子は,あらためて夜雀を見すえた。
「貴方の願いは なぁに」