トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第15回

《xxxHOLiC・戻》第15回
  ヤングマガジン:2013年40号:2013.09.02.月.発売
 
木々も茂る暗やみの中を,作務衣姿の君尋と静が,おのおの四角い風呂敷包みを胸にかかえ,歩いていた。
「誰もいねぇな」
「夜中もいいとこだからな」
「真っ暗だな」
「新月だからな」
カラコロとぽっくりを響かせて前を歩く夜雀の姿が,ぽぉっと光っている。
夜雀は先に歩くのでなくついてくるものだがとか,光るのも初耳だとか,君尋が静の耳元で話す。聞かれて,名前のいわれも説明する。
「鳴き声が『チッチッチッ』って 雀みたく聞こえるんだと」「憑かれると夜目が見えなくなるって 言い伝えもあるらしい」
「雀みたく泣いてなかったがな」「『うわーん』とは言ってたが」
静の軽口に,君尋も顔を寄せて,
「で あの姿で年寄り…」
夜雀が急に振り向き,君尋はあわてたが,彼女は,2人に向き直ると告げた。
「…ここまでです」
 
自身が行けるのはここまでということばに,君尋は,真っ暗だしどこに行けばいいのかもと訴える。そこで夜雀が取り出したのは,大きさが彼女の手の平くらいの円板の縁に,図案化した羽がついたような形の,ひとがた〔人形〕ならぬ「とりがた」とでも呼べるものだった。
「この先は」「この鳴き声を頼りに」
その手を離れ宙に浮き上がったそれは,
“チッ チッ”“チッ”“チッ”
鳴くような音を立てながら,夜雀のおかげで木々の姿も見えているその一角から暗がりへと,飛んでいく。
「あ,待って」
君尋と静は,包みをかかえてあとを追った。
見送る夜雀はつぶやいた。
「どうか」「助けてください」
 
「とりがた」は,光りながら,2人の少し先をただようように飛んでいく。その音を聞いて,静が言う。
「確かに 雀みてぇだな」
 
{誰だ}
それは,突然頭の中に響き,2人は驚いた。
“チッ チッ”“チッ”
{夜雀の先遣(さきやり)が導いて来たか}
君尋が答える。
「夜雀に頼まれて来ました」
{何を頼まれた}
「詳しくは聞いてないんです でも,助けて欲しいって」
いっとき,間があいた。
{清浄な気だ}
{そちらの者は神職か}
「いや ただの寺の息子だ」
{もうひとりは}
「ただの学生です」
{…… そのまままっすぐ進め}
茂みをかきわけて出てみると,目の前に,根元の径が10mにも及ぼうかという巨木がそびえていた。
 
「でか…!」
君尋の口からことばが漏れ,2人はそのモノを見上げた。
“めき”
突然,その幹のこちら側が,縦に裂けはじめた。
“めきめきめき”
裂け目の高さは,たちまちひとの背を越え,さらにのびる。
「わっ!!」
君尋は声を上げた。