トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第17回

《xxxHOLiC・戻》第17回
  ヤングマガジン:2013年44号:2013.09.30.月.発売
 
これだけではと不安げな君尋を,おまえが作ったんだから供物としては上等だろう,と静が励ます。
その君尋が,「つ!」と頭をおさえ,一瞬よろめいた。強い気が……。
{確かに}
頭の中に,声が響く。
風呂敷包みの結び目がほどけた。同じくらいの包みだったが,その中は,君尋のほうが三段の重箱,静は天面に持ち手がつき前面があいた木箱で瓶子を納めていた。
{久しく嗅ぐことのなかった 心踊る気}
{それを 我に捧げるか}
「貴方がそれを望むのならば」
君尋が答える。
供物は,支えるおのおのの両腕から離れ,昇っていった。
またもや,強い光が放たれた。供物の姿は消え,目を閉じたその体の中に吸いこまれたようだった。
 
その目が,再び“かっ”と見開かれた。
“オオ オォ オオ”{まさに 至福}
心地よさそうな遠吠えが響き,まわりの枝も,さらにのびていく。
よい供物で久方振りに力が満ちたと言う山狗は,このままここで時を過ごせばほかの山狗と同じくいずれ消えるだろう,力を得たこの時が機だと話す。君尋は,呼びかけた。
「何処へ行かれるか 教えてもらえますか 落ち着かれた後でもいい」「また,料理も酒も持って…」
{それは難しかろう}
{この国の何処へ行こうとも同じこと}{既に我らは必要とはされてはいない}
必要としている人達はいると,君尋はなだめようとするが,
{そういう数少ない者達を 他の大勢が必要とはしていない}「それが,この地の現状(イマ)だ」
おだやかに言い放つと,体を起こし,“す…”と前足を踏み出した。
ぱきぱきと,枝が音を立てる。木の外へと現れたその体。まわりの枝と見えたのは,その体自体おもに肩の近辺から,葉も茂らせたさまざまな草木の枝がのびているのだった。
{夜雀が導いたものたちよ}
ぎっしりと生えている枝が広げられた。さながら巨大な翼である。
{飛翔のための羽樹(ハネ)を この身に纏う事が出来た}
{また遭う事は叶わぬだろうが 礼を夜雀に託(ことづ)けよう}{受け取れ}
ただ,そのようすを見上げていた2人だったが,
「…確かに少ないけれど いなくなった訳じゃない」
静が話しかけ,君尋は思わずその顔を見た。
「あのひとや」「こいつのように」「忘れずにずっと覚えて」「側にいようとする者は いるんだ ちゃんと」
「…百目鬼」
君尋はつぶやく。
 
“ばさ”
山狗が,その「羽樹」を羽ばたいた。
{…そのもの達の先が 幸いであるように}{遠く離れた何処かで祈ろう}
{おまえ達が我らを忘れぬうちは}
2人の心に声を残し,その姿は,木々の間から夜空へと,小さくなっていった。