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戻 第21回

《xxxHOLiC・戻》第21回
  ヤングマガジン:2013年51号:2013.11.18.月.発売
 
「なんだ,それは」
「分かんねぇよ 本当に只,300円を交換してたんだよ」
きょうも作務衣姿で境内落ち葉掃きの2人である。
静から,それを見てどう感じたと問われ,君尋は答える。
「…なんだか… 一瞬…」「冷たくなったんだ」
「…ぞっとした っていうか… あ」
君尋は,さい銭箱がないか聞いてきた人も手に百円玉を持っていてと説明しかけたが,思い出したからか,“ぞく”と同じ感覚におそわれ,自身を抱きしめた。静は,その左腕を右手でつかんだ―だいじょうぶかと言うように。
 
急に門の外が子どもの声で騒がしくなった。
「それ,ほんと?」
「百円玉,交換するだけで?」
「わかんない でも 書いてた子はすごかったって」
「それ,どこにのってた?」
ランドセル姿の女の子3人が話しているところに,熊手を持った君尋が,走ってきて声をかけた。
「あの」
不審そうな目を向けられ,竹ぼうきを持って追ってきた静が,ここの寺のものだと言う。
納得して,線香のいいにおいがするなどと,寺の話を始めてしまう3人組だが,君尋は,かまわず問いかける。
「『百円玉,交換する』って」「おまじないか何かかな」
1人が説明する。自分の百円玉3枚を誰かと交換すると,その相手に3倍すごい事が起こる,そんな話だった。ほかの2人は,起こるのは交換してあげるほうなのとか言い出したが,説明した子は,相手にいいことがあったらおごってもらえばと受け流す。
子どもたちが,塾の時間などと言ってかけ去ったあと,静がつぶやいた。
「よくあるまじないの類 …とは思えないみてぇだな」
君尋は,考えつつ話す。
「…ある意味 まじないではあるんだろうけど」
「3倍すごいって 『何が』すごいのかが明確になってない」「それに,300円を『あげる』んじゃなくて交換するっていうのも…」
 
校庭の芝生のシートでは,食後のデザートに移ろうとしていた。
「もうそろそろ 外で御飯も終わりかなぁ」
言いながら,君尋が湯気の立つコップをひまわりに手渡す。
「ありがと」「朝とか夜,随分冷えるようになったものね」
「でも,このマロングラッセとか」「四月一日君がつくった秋の美味しいお菓子が食べられるから 嬉しいけど」
1個ずつくるんだ包みをあけて中身を見たひまわりが言う。
「いつも美味しいもの たくさん,ありがとう」
満面の笑みで話すひまわりに,君尋もにこにこ顔で答える。
「こちらこそ,ありがとう」
マグボトルの中身をコップにつぎながら,君尋はうれしそう。ひまわりも。
そんな2人に関係なく,静は,紙箱から菓子の包みを無造作に取り,口に放りこむ。
「おまえは ほんっっとうに 礼言わねぇな!」
言いながら,コップを当人に突きつける君尋だった。
着信音がして,ひまわりは携帯を取り出した。そして,グループでまわってくるメールだと画面を見ていたその表情に,影がさす。
「最近,これ 良くくるのよね」
「おまじない なのかな」「自分の300円をね 他の誰かの300円と とりかえるっていうの」
聞いて,君尋は不安がふくらみ,やったかと尋ねる。
「ううん やってないけど」「四月一日君も知ってるの? このおまじない」
これで,ほっとひと息。遠慮がちに伝える。
「聞いただけなんだけど」「なんだか… やらないほうがいい気がして…」
「じゃあ やらない」
「え?」
笑顔であっさり言われてちょっと驚く,君尋だった。