しかし、長らく世界最高速鉄道の地位を守ってきた新幹線が、ついにその座を明け渡すことになりました。それがフランス版新幹線というべき、TGVの登場です。 まず、TGVとは何者かを説明しておきますと、パリ〜リヨン間の全長389kmを、高速鉄道のための新線によって1983年に全線開業し、時速270kmで走行をはじめます。その後、1993年に北新線で時速300km運転をはじめ、ヨーロッパをはじめ世界の高速鉄道をリードしてきました。 日本の新幹線との決定的な違いは動力方式で、日本の場合は動力分散方式(各車両にモーターを搭載するタイプ)、TGVの場合は両端動力車方式(機関車により客車を牽引するタイプ)と大きく異なります。 動力分散方式と動力集中方式の違いを数値化したのが次のデータです。 動力分散方式と動力集中方式の違い |  | M=電動車、T=制御車(客車)、L=機関車を示す。 ちなみに、長野行新幹線に用いられるE2系は6M2Tである。 | 資料:鉄道工学ハンドブック | | これによると、動力分散方式は高価ですが、加速性能と列車重量が動力分散方式よりも優れていることがわかります。 なぜ、日本は頑なに動力分散方式を採用し続けるのでしょう。 それは、地盤(*14)の弱さ、そして巨大な沿線都市の存在があります。 日本では多くの地方で、地下水が地表面近くまで迫っています。ですから地盤が弱く、重い車体を支えるには地盤の改良工事が必要となります。また、河川が多く、そのため橋梁を造らねばなりませんが、重い車体だと橋も頑丈に造らねばなりません。これは高架橋にも当てはまります。頑丈な構造物はそれだけ余分にコストがかかるので、出来るだけ避けたいところです。 また、沿線人口の多さも日本特有です。東京〜新大阪間に、人口百万人を越える都市が6つもあり、50万を越えるものは両手を足しても数え切れません。それらの都市からも新幹線を利用したいという要望は当然あるはずで、従って停車駅が必然的に多くなってしまいます。ここで高加減速の動力分散方式の良さが光ります。 補足ですが、平成9年11月に登場した「500系のぞみ」が、駅間平均速度で世界一となりましたが、これも最高速度が同じならば加速性能がよいものが結果的に速いということを実証しています。 さらに補足をしておきますと、減速性能でも動力分散方式は性能が勝ります。動力集中方式ではブレーキをかけても、後ろの客車の「慣性力」(*15)が機関車を押し続けるため、ブレーキ性能がダウンしてしまうということになります。一方の動力分散方式だと、それぞれの車輪に電気的、機械的にブレーキをかけますので、不必要な慣性力はかかりません。 また、日本では人口密度が大きいために公害対策にも気を配らねばなりません。車両通過による振動や、構造物や車両そのものが立てる騒音は、列車重量に比例して大きくなります。動力分散方式はまさに日本の国土事情にぴったりの方式なのです。 ですが、モーターを車体の下に作るため、乗り心地が悪くなりますし、メンテナンスが難しくなります。また、数が多いためにコストが高くなりますし、手間がかかります。 ここまで述べると、どうして韓国で建設中の高速鉄道がTGVのような両端動力車方式を採用するかがお分かりになるでしょう。また、日本には動力集中方式は似合わないこともお分かりのことでしょう。このように、高速化技術にも各国の内情が反映されることになるのです。 落成したての韓国版TGV |  | 試作車・量産車の計12編成がフランスで、残る34編成が韓国国内で量産される。尚、全長431kmの路線に対し、停車駅は両端駅に加え1駅のみとなっている。 | 写真:鉄道ファン97年1月号 | | (*14) 地盤=地面のこと。 (*15) 慣性力=走り続けていようとする力。実験したければ動く歩道で全力ダッシュしてみればわかります。動く歩道の外に出たときに、後ろに強い力を感じるでしょう。 | |