大都市の海辺に行くと、高速道路や新交通の高架橋が白いリボンのように架かる姿が見られます。また、大都市の地下では、新しい形の地下鉄が次々に誕生しようとしています。今回はそんな新交通についてのお話をした上で、実際に存在する街、金沢市に於ける新交通システム策定について考えてみましょう。
一般に「新交通」と言って頭に思い浮かべるのは「AGT」(Automated Guidway Transit)と呼ばれるものだと思います。…といってもAGTと言ってわかる人は、鉄道などに詳しい人でもごく少数のことだと思います。 日本語に直すと「案内軌条式鉄道」、一般的な説明として 「高架上等の専用軌道を小型軽量のゴムタイヤ付き車両がガイドウェイに沿って走行する中量輸送システム」 で、コンピュータ制御によって無人運転も可能なシステムのことを指します。 …ここまで言えばAGTとは何のことかおわかりいただける人も多いのではないでしょうか。東京の「ゆりかもめ」、横浜の「シーサイドライン」、名古屋の「ピーチライナー」、大阪の「ニュートラム」、神戸の「ポートライナー」…。「新交通システム」と呼ばれていますが、これから述べていくもの全てが「新交通」になるので、紛らわしいために区別します。 大阪市交通局「ニュートラム」 |  | 日本で2番目に完成した大阪市交通局「ニュートラム」。現在車両は2代目になり、自動運転も実施されている。 | 写真:筆者 | |
一方、「モノレール」と言われて「?」と思う人は少ないでしょう。その名が指すように「モノ(一つ)」のレールの上にゴムタイヤの車両が走行する交通機関のことです。「誇座型」と「懸垂型」の2つがあります。 懸垂型はレールとなる軌道面が覆われているために天候の変化に強く、急カーブや急勾配に強く、またレールが頭上にあるためにホームと転落防止のための床との高さが50cmと低く、万一落下しても安全です。また、軌道桁(レール)や、それを支える支柱が鋼(はがね、頑丈な鉄です)でできているので、工場で製作し、工事現場へ搬入することができ、工事が正確で早く完成させられます。その反面、モノレールは車体を下へむき出しにしているので、接触事故が起こる可能性も否定できませんし、何より鋼でできているので高価ですし、錆止めなどの保守を行う必要があるために手間がかかります。 跨座型は懸垂型の逆で、コンクリートで出来た軌道面の上をモノレールが走ります。軌道面がむき出しのため、天気に弱く小回りも利きませんが、材料であるコンクリートが安価なため、安く作ることができます。 誇座式と懸垂式モノレール |  |  左は懸垂式の湘南モノレール、 右は誇座式の大阪モノレール。 大阪モノレールは現在モノレールとしては世界一の路線長を誇り、ギネスブックにも認定されている。 | 写真:鉄道ダイヤ情報(1997年12月号) | | 歴史で見るとモノレールの方が古く、発明そのものは蒸気機関車よりも早い1821年とされています。実際に運転が始まったのは1888年。そして現在も走る最古のモノレールは1901年で、河川の上空に架設できる特徴を活かし、現在も開業以来の無事故を誇っています。その後、我が国でも1958年に東京都の上野公園内に懸垂型モノレールを、将来の各都市での実用を目指して独自の開発によって建設しました。一方のAGTは1975年にアメリカで、点在するキャンパスを結ぶ「足」として誕生しました。その後、1981年に日本でも神戸と大阪で相次いで運転を開始。その後、新交通・モノレールとも新路線を増やしながら現在、そして未来へと続いています。
さてさて、高架橋の上を走るこの2つのシステム、似てて非なるような、でも同じのような。次はこの2つの違いを比較してみましょう。果たしてどちらがいいのでしょう? | モノレール | AGT | 主な特徴 | ・占用空間が少ない ・急曲線・急勾配に対応可能 | ・完全自動運行システムに より無人運転も可能 | 建設費 | システム:30〜70 インフラ:35〜75 | システム:30〜65 インフラ:35〜100 | 表定速度 | 30km/h | 27km/h | 最大輸送力 | 11,000人/時・片道(大阪) 26,000人/時・片道(理論値) | 9,400人/時・片道(横浜) 18,000人/時・片道(理論値) | 運営経費 | 2.21億円/km・年 | 2.33億円/km・年 | 必要な 利用客数 | 4,000人/km・日 | 4,300人/km・日 | この数値だけ見ていると「AGT」は費用がかかる、そのことだけは間違いないと言えるでしょう。 それにも関わらずどうして「モノレール」と「AGT」があるのでしょうか? モノレールにおける「インフラ」部分とは |  | 「インフラ」(インフラストラクチャー)とは、道路内に設置される支柱や軌道桁、そして駅の躯体などを指す。1974年に発足した「都市モノレール建設のための道路整備に対する補助制度」では、こうしたインフラの箇所を国または地方公共団体が道路の一部として建設し、その一部を国庫補助するという仕組みがある。左図では青色の箇所が「インフラ」に該当する。尚、赤色の箇所は電気通信関係設備で、モノレール事業者が建設することになっている。 | 出典:鉄道ダイヤ情報 1997年12月号 | | モノレールは遊園地内のみにある物を除くと6路線、AGTは10路線。しかしながら、1994年・1995年に2路線のAGTの新路線が開通した後は2路線のモノレールが誕生します。モノレールは最近になって見直されてきている…とも言えなくもありません。 しかしながら、AGTが持つ強みもまたあるわけです。それが「ガイドウェーバス」なのです。
「ガイドウェーバス」。それは、レールの長所を取り入れ、かつ短所を克服した新しいバスシステムです。 | ガイドウェーバス | 基幹バス(*1) (専用レーン) | 主な特徴 | ・郊外部において一般道路を走行することにより、柔軟な路線計画が可能。 ・AGT導入の段階的設備とすることが可能 | ・バスと比較して、輸送力・定時制・速達性が改善される。 ・街路に導入空間がある場合にはバス交通の改善効果が大きく、適する。 | 建設費 | インフラ:33 | インフラ:3 | 表定速度 | 20〜25km/h | 20km/h | 最大輸送力 | 4,000人/時・片道(理論値) | 4,000人/時・片道(理論値) | 具体的な仕組みとして、ガイドウェーバスを走る車両は、従来の路線バス車両のタイヤに加え、補助車輪(案内装置)をもっており、専用軌道(レール空間)を走るときには運転士はハンドルを操作せずともアクセル・ブレーキ操作のみで運転し、そのほかの一般道路では普通のバス同様に走られるというシステムです。 都心部では専用軌道を走るために渋滞などに巻き込まれず、またレールがあるために『ハンドル操作ミスは起きない』=『専用軌道の幅は必要最小限で済む』ために工事費が安く済み、そして何よりも乗り換えが不要です。ガイドウェーバスのシステムはAGTと同じですので、利用客が増えてきた場合、いつでもAGTにすることも可能です。 つまり、モノレールの場合は1から10まで完成しなければ使い物になりませんが、AGTの場合は1から3まででも完成すればガイドウェーバスとして使え、完成しても利用客が特別に多くないのであればそのまま乗り換え不要なガイドウェーバスとして使えば良いことになります。 (ただし、ガイドウェーバスが専用軌道へ入るための導入路は別に必要ですが。)
モノレールとAGTの共通点もあります。それは、モノレールもAGTも、その多くが地上、それも高架橋の上を走ることです。しかしながら、高架橋の多くは道路の、それも中央分離帯の上にに支柱を建てて作りますが、その高架橋(正しくは「建築限界」と言います)と道路の端(「道路境界」)との間は6メートル以上距離を空けなければならない、という決まりがあります。これはもし線路付近で火事があった場合、はしご車が接近できるためのスペースです。しかしながら、そんな条件を満たすような道路は幅30メートルほどになり、幹線道路以外には作られないことになります。細い道でも新交通システムを作りたい…そんなとき、視線を下へ移すと答えが見えてきます。 (*1) 基幹バス=道路に専用のバスレーンを設ける方式。しかし、道路設備自体は一般道路と併用しているため、交差点の信号処理問題の影響を受けたり、一般車が専用レーンに進入してバスの運行を妨げるといった問題点を抱える。 | |