リニアモータ。宙に浮く時速500kmを超える磁気伝導の超高速新幹線…のことではなく、元々の意味は線形モータにより推進力を得、支持・案内は従来の鉄道同様レールによるもののことなのです。…と書いてもこれまた難しいでしょうから、下の図を見てください。 リニアモータの原理 |  | 上図は従来の回転モーターからリニアモーターへの展開を模式的に示した物。一次側コイルが台車上(下下図参照:台車が左図で、リニアモーターが右図)に、二次導体がレール側(下図参照:リアクションプレート)になる。 |  |  |  | 出典:新しい都市交通システム/都市交通研究会・著 | | 従来のモーターだと回転することによって前へ進む力を手にしていました。しかしながらこの円形のモータを平べったくすることで、高さを押さえることができ、結果として車両を小さくすることができます。 車両が小さくなるということはトンネルの空間を小さくでき、その結果トンネルを掘るための費用を押さえることが出来ます。地下鉄の工事費用のほぼ半分が土木費、その大半がトンネル工事費なので、そのトンネルが小さくできるとなれば、かなり魅力的なお話しです。 地下鉄建設費の推移 |  | 上図は東京・営団地下鉄における1kmあたりの地下鉄建設費。右のものほど最近になって作られたもので、平成2年に完成した南北線では1kmあたりなんと2890万円を費やしている。しかもそのほとんどは土木費で、地下深くに建設しなければならない土地的制約や上昇する人件費、耐震精度向上などによる技術面での追加投資がその上昇の原因となっている。 | 出典:営団地下鉄ハンドブック/帝都高速度交通営団・編 | | そのほかにも前に進む力がリニアモータであり、レールと車輪との間に生じる摩擦力を頼りにしないために急勾配にも対応できること、そして歯車が不要なために騒音や保守を低減できること、新開発の「ステアリング台車」により急カーブでも楽に運転できるなどいいことも数知れずあります。 ステアリング台車 |  | 従来の台車はカーブを曲がる際、台車自体を動かすことで対処してきた。しかし、ステアリング台車の場合は車軸が独立して動くためにより小回りが利く。上図はその事を端的に示すもので、台車の大きさとは無関係にカーブを曲がる様子がわかる。 | 出典:LINEAR METRO/(社)日本地下鉄協会 | | その反面、トンネルが小さくなるために車両を小さくしなければならず、通常の地下鉄などがリニアモータ地下鉄の路線に乗り入れることはできません。また、輸送力が通常の地下鉄よりも低下してしまうため、【建設費】を【最大輸送力】で割ると従来の地下鉄よりも高くなってしまいます。 電車を動かすための電気代は2割ほど高くなりますが、意外にも車両費は従来のものと差はありませんし、車両の維持が容易なので、電気代の分ぐらいの費用は押さえることができます。 まとめますと、リニアモータ地下鉄は最初の支出を小さくすることは出来ますが、その後さばける乗客数はそう多くなく、トンネルが小型で車両が特殊なために他の鉄道や地下鉄は乗り入れることができないことがわかります。 | リニア地下鉄 | 在来型地下鉄 | 主な特徴 | ・断面が小さいので、在来型地下鉄よりも建設費が安くできる。 ・急曲線・急勾配に対応可能 ・保守が容易。 | ・大量高速での輸送が可能。 | 建設費 | 200〜210億円/km | 250〜300億円/km | 表定速度 | 34km/h | 32km/h | 最大 輸送力 | 29,000人/時・片道 (都営12号線) 35,000人/時・片道(理論値) | 58,000人/時・片道 (都営新宿線) 64,000人/時・片道(理論値) | 運営経費 | 6.66億円/km・年 | 6.66億円/km・年 | 必要な 利用客数 | 12,200人/km・日 | 12,200人/km・日 | ここまでの新交通システムの共通点は「急勾配に強い」「小回りが利く」ということでした。地下や高架橋上を走るものに、どうしてそのような条件を求めるのか、疑問に感じませんか?特に地下鉄であれば、一直線に走らせることなどたやすいことだと考えるでしょう。どうしてそのような特性を必要とするのかを、ここから述べていくことにしましょう。 都市が発展する過程で、高速道路ができ、在来鉄道が高架化されていきました。地下では、上下水道管が作られ、地下鉄が走り、地下街ができ、そして電線が地中化されていきました。その後に作られる新交通は、それらの既にできた構造物を何とかして通り抜けながら走らねばなりません。しかしながら、地上高く、地下深くに作ると、それだけ工事費が余分にかかってしまいます。また、あまりに日頃歩く地上から離れすぎたところばかり走ると、駅も当然線路に沿って作らなければならない分地上からの距離が遠くなってしまい、使いにくくなってしまいます。ですから、邪魔者がある場所だけを、できるだけ身軽にくぐり抜けて走りたいものです。そこで「急勾配に強い」必要性が生じるわけです。 急勾配に強くなければならないわけ |  | 上図は在来型鉄道である、JR東西線(大阪府)の路線断面図である。北新地(大阪駅、梅田駅に対応)など都心部の駅は地下深くに建設されている。また、途中大阪城北詰〜北新地間では既に建設された地下鉄がいくつもあるため、これらの下を走る必要がある。淀川の下をくぐり抜けるときに極端に低い箇所を走るが、これは阪神高速道路の橋梁下をルートとして選んだために、その橋脚の杭基礎のさらに下を走る必要があり、そのためにこのような現象が生じるのである。 | 出典:鉄道ファン/1997年4月号 (本図はクリックすると拡大した物が表示されます。) | | では、「小回りが利く」必要性とは何でしょうか。電車は当然の事ながら直角には曲がれません。スピードを出したまま曲がるには、どうしても円を描くように曲がらなければなりませんし、それに加えて電車自体の長さもあります。新交通のほとんどは道路の直上、もしくは直下を走りますが、道路で車が曲がるようには新交通は曲がり切れません。そこでやむを得ず交差点の外にある民有地(*2)を占有しなければなりません。その面積が小さければ、土地買収のための費用を抑えることができます。 ちなみに、地下であったとしても、法律(*3)では地下も上空も占有権を認めていますので、そのための補償費用が必要になります。 少しでも土地買収の費用を抑え、工事費を削り、それでいて便利になるために。そのために身につけた「技」が「小回りが利」き、「急勾配に強い」ことなのです。
これまでは、道路の上下を使い、地上を走る自動車とケンカしないように新交通のための空間を確保してきました。しかしながら、自動車と共に生きる方法もあるはずです。専用軌道を走りながら、時には道路上を走る鉄道システム。それがこれから述べる「LRT」なのです。 (*2) 民有地=個人の私有地。 (*3) 法律=ここでは民放第269条の2・「地下・空中の地上権」を指す。これによると、 1.地下又ハ空間ハ上下ノ範囲ヲ定メ工作物ヲ所有スル為メ之ヲ地上権ノ目的ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ設定行為ヲ以テ地上権ノ行使ノ為メニ土地ノ使用ニ制限ヲ加フルコトヲ得 2.前項ノ地上権ハ第三者ガ土地ノ使用又ハ収益ヲ為ス権利ヲ有スル場合ニ於テモ其権利又ハ之ヲ目的トスル権利ヲ有スル総テノ者ノ承諾アルトキハ之ヲ設定スルコトヲ得此場合ニ於テハ土地ノ使用又ハ収益ヲ為ス権利ヲ有スル者ハ其地上権ノ行使ヲ妨グルコトヲ得ズ となる。 | |