LRTとはLight Rail Transitの略で、「軽快電車」とよばれます。かつて、日本中のありとあらゆる所に路面電車が張り巡らされました。しかし、その後自動車交通が急増し、路面電車もその交通渋滞に巻き込まれ、時間通りにつかない、またスピードが遅いなど次第にその機能を低下させていきます。1950年代のことです。交通状況はその後も解決することはなく、次第に深刻化する渋滞の中、少しでも道路として使える空間を確保しようという声があちこちからわきあがりました。その結果路面電車は次第に道路から排除され、現在残るのは全盛期の約1/6しかありません。 従来の路面電車 |  | 大阪の下町を走る阪堺電軌。従来、日本の路面電車は法律により、40km/hまでの速度制限や道路の真ん中を走らねばならないなどといった規制事項が課されており、これが路面電車の発展を阻害してきた。 | 写真:筆者 | | しかし、それでも渋滞が解消されることはありませんでした。慢性化する渋滞、悪化する環境。そこで見直されたのが路面電車だったのです。しかし、今までと同じシステムではいずれ失敗する。自動車よりも魅力的な公共交通機関を。それがLRTなのです。路面電車とLRTを比較した表が下にありますのでご覧下さい。 この言葉を最初に使いだした国は皮肉にも自動車大国・アメリカで、この時アメリカ運輸省が定めた定義が「大部分の区間を他の交通機関から分離した軌道を走行する」、すなわち自動車に邪魔されない新しい都市交通システムとして考え出されました。 LRTの元となる路線は、もともと完全に道路と共有しない路線(だけどなぜか「路面電車」)や、一部に地下や高架化がなされていた路線でしたが、これをより速く・より便利に作り替えていきました。そうしてできあがったシステムは下の通りで、ドイツで培われた技術や運営方法もたくさん取り入れられています。 | 路面電車 | LRT | 輸送路 | 基本的には、街路上を一般道路交通と競合して運行される。 | 路面電車と同様に街路上を走行するが、道路と分離した専用の軌道走行が基本的形態である。 | 形態 | ただし、ときに優先措置を受け、または軌道を専用化して他の交通と分離される場合もある。 | 部分的に地下化、高架化を積極的に行い,効率的な運行をめざしている。 | 運行特性 | 乗客の利便性は高いが、定時性、表定速度は、沿線の走行条件に大きく左右される。 わが国における表定速度は、一般に15km/h程度となっている。 | 専用軌道敷走行と高性能車両により、定時性および高い表定速度の確保が可能である。 表定速度は25km/h以上を確保することも可能で、運行頻度も路面電車と比較して多くできる。 | 車両 および 編成 | 車両は4〜6軸で、長さが14〜21m、乗車人員は100〜180人程度で、そのうち20〜40%が座席となっている。 | 車両は6〜8軸の分割連節車両、4〜6軸車両の4両編成、8軸車両の2両編成等さまざまなものが運行されている。 | 編成は1両または2両、まれに3両の編成で運行される。 | 分割連節型車両の長さは20〜30m程度である。 | 最高速度は40〜60km/h程度。 | 定員は110〜250人程度で、20〜50%が座席である。 最高速度は70〜80km/h程度、100〜125km/h程度のものもある。 | 表:路面電車とLRT このほかにも、これまでは車内で運転士が行ってきた運賃収受(受け渡し)を停留所(駅)にて行うセルフサービス方式を採用することで停車時間を短縮するほか、停留所(駅)では周辺に駐車場を設けて車からの乗り換えができる「パーク・アンド・ライド」システムや、バスとの接続を行うことで利便性を高めています。これには、乗り換えにより運賃が割高にならないよう、どこまで行っても同じ運賃になる「均一運賃」や、中心部からの距離に応じてゾーン分けし、そのゾーン単位で運賃を決める「ゾーン方式」を採用しています。 歩行者専用のショッピングストリートに電車を走らせる「トランジットモール」も注目を浴びています。 自動車中心の街作りから、歩行者中心の街作りへ。素通りすることが多い自動車から、いつでも気ままに見て回れる歩くスタイルに変わったことにより、これまでよりももっとゆっくりと商店を見て回れます。そのため、人が街にいる時間が長くなり、活性化していきます。この方式は日本でも浜松市がバスを用いて実施、好評を博しました。 観光地である金沢市では、日本で初めて観光客が特に集中するゴールデンウィークに郊外に駐車場を設け、ここから観光地や市内中心部を回るバスを運転しています。 アメリカでは都心部ではLRTの運賃を無料にし、「水平に動くエレベータ」として機能させることで商店街を大きな一つのビルのように見立て、楽しい雰囲気を作り出しています。 そうです、LRTが注目される理由の一つに「気軽に乗られる乗り物」という点があるのです。 リニア地下鉄やAGT・モノレールは、駅へ向かうのに上下へ上り下りしなければなりません。しかし、LRTでは駅からそのまま乗るだけ。車椅子で移動する人や、お年寄りなど足腰が弱い人々には大変便利です。 誰にとっても利用しやすい設備を作っていくこと、これを「バリアフリー」といいます。 LRTの車両は「LRV(Light Rail Vehicle)」と呼ばれています。これは、それまでの路面電車よりも高性能で、車両を複数つなげることでより多くの乗客を乗せることができます。それに加え、車両の床面が非常に低いので、ホームと車両との間に段差ができません。ですからスムーズに乗り降りができます。これまでは車輪の部分が大きく、そのために床面が高かったのですが、技術革新と発想の転換でこの問題をクリアできたために実現しました。日本にもこういった車両が誕生し、広島や熊本で活躍していますが、車両のみが先走りしてしまいシステム全体には遠く及びません。 熊本市交通局9700系 |  | 平成九年にデビューした超低床路面電車の先駆け・9700系。車椅子での乗り降りがしやすいよう、出入り口は従来の車両よりも拡幅されている。しかし、路面電車へのアプローチは従来のままで、本格的なLRTの導入とは言い難い。 | | | LRT。地上を走るので安価、しかも便利で使いやすい。なんと魅力的なシステムなのでしょう。しかしながら、先に述べた「トランジットモール」を行うにしても、都心部での無料運転を行うにしても、今の日本の制度上では到底できません。 運営のための費用を、アメリカでは売上税の一部を公共交通の整備に使えるよう住民投票での支持を得て決まりましたが、日本では地方都市が独自の税金を取ることは原則として許されていません(*4)。それどころか、街作りに際し住民投票すらろくに認められない状況にあります。徳島県の吉野川河口堰建設問題で半分を超える住民が建設を進めるべきかどうかを問う住民投票の実施を求めましたが、県議会はこれを「無視」(*5)。法律が変わらなければ、国が変わらなければ、そして政治が変わらなければ、LRTが日本で誕生することは決してないといえましょう。 (*4) 赤字に悩む東京都が導入を検討している、銀行に対して独自の税金を課す「外形標準課税」が自治体独自で課す税として挙げられるが、当の銀行はもちろん国も反対の意見を表明している。 (*5) 徳島県吉野川河口堰問題における住民投票は、その後の統一地方選で住民投票支持派が議席を大きく伸ばしたために実現された。 | |