新交通システムの導入は利用者の利便が確保できることを前提にしています。しかし、勢い形から入ってしまうきらいもあります。そんな中、柔軟な考え方から街を結ぶ足になることを目指したものがあります。 1998年8月28日、日本に新たな交通機関が誕生しました。その昔、鉄道路線の中でも日本有数の難所といわれた通称「瀬野八峠」のふもと・広島県瀬野駅と、同駅北側の山間丘陵地に開発された「スカイレールタウンみどり坂」を結ぶ全長1.3kmの短距離交通システム、正式には「ロープ駆動式懸垂型交通システム」がそれです。新交通システムの第一世代といわれる「ロープウェイ」、第二世代の「モノレール」、そして第三世代の「リニア誘導モータ」の長所を取り入れたこのシステムでは、急勾配の登坂やロープウェーでは困難な曲線走行も可能です。 スカイレールみどり坂線 |  | 神戸製鋼所と三菱重工業が共同で開発した新しい交通機関。下の写真は急勾配・急カーブに対応するスカイレールの特徴を端的に示している。 |  | 写真:(上)神戸製鋼所ホームページ・ (下)広島大学工学部交通工学研究室ホームページより | | このシステムでは、上に挙げたほかに - 軌道を含めた全体の占有断面積が小さい 。
- 専用軌道で定時運行が可能。
(道路などと立体交差するため) - 環境面で優れている。
(排気ガスが無く、構造がシンプルなため日照・電磁障害、景観面で優れている) - 建設費や運行経費が安い。
- 中量輸送が可能。
(1時間あたり片道2,000人〜10,000人) - 運行間隔を短くし、高品質のサービスが提供できる。
- 移動速度が高く、加減速もリニアモータ駆動により優れている。
- 急勾配に強い。この場合、26.3%(角度で約15度,他の新交通では最大6%)の急傾斜地にも対応できる。
- 雪や氷結に強い 。
といった長所と、 - 乗車率が高い場合、中間駅での乗車チャンスが減少する。
(定員乗車のため、始発駅での乗車率が高い場合は中間駅での乗車機会が減少する。) - 防犯面での配慮が必要となる。
(車両は狭いため、乗車率が低い場合は防犯の配慮が必要となる。) といった短所をもちます。 スカイレールの車両 |  | 定員25名・着席定員8名のスカイレールの車両。司令員との通話が可能な非常通報装置や、一旦駅を出ると途中では開かないドア、そして快適な空間を演出する空調装置を有する。また、車両自体にモーターを持たないために、外観がスマートなものとなっている。 | 図面:鉄道ファン/1998年11月号 説明:広島大学交通研HPより | | このほかにも災害時の安全確保など、気になる点はいくつかありますが、従来の新交通システムでは導入できなかった狭い市街地にも導入でき、何よりも運転間隔が短くできるためにより気軽に利用できる交通手段として、今後の発展が期待されるシステムです。 スカイレールの台車およびシステム |  | スカイレールは途中区間をモノレール+ロープウェー、駅進入/発進時には地上コイルの電磁力により加減速力を得る。 台車内には水平を保つための懸垂ピン、重量を軌道に伝えるためのウレタンゴム製の走行輪、軌道桁のカーブに従うための案内輪、軌道桁を挟む安定輪と、ロープを握るための握索機を有する。 | 図面:鉄道ファン/1998年11月号/説明:広島大学交通研HPより | |
また、既存の交通システムについても改良を加え、新たな移動手段として活用する動きが出てきました。 ここで活躍するのは「バス」。しかし、ただのバスではありません。 「コミュニティバス」。それまでバスが走らなかった地域に小型バスを走らせ、住民の足としての機能を期待するものです。 これは、武蔵野市が平成七年11月26日にはじめた「ムーバス」に端を発します。おとな・こどもを問わず一回100円の均一料金で気軽に乗れることを柱に、これまでは道が細くてバスが走れなかった地域にもバスを運転しました。その結果、これまで閉じこもりがちだったお年寄りたちが外出する機会を得るなど、住民からの評判はかなり高いものとなりました。 この成功をうけて、全国の各地で同様の試みがなされましたが、その中でも特に注目を浴びているのが金沢市の「ふらっとバス」です。このバスは、全国で初めて小型のノンステップバスを導入し、車椅子や高齢者でもより安心して乗り降りが出来ることを目指しました。また、市内中心部における商店街の活性化のため、アーケード商店街の中にもバスを直通で乗り入れるという類を見ない手法が取られました。 金沢ふらっとバス |  | 横安江商店街のアーケード下を走行する金沢ふらっとバス。ベースはフォルクスワーゲンだがそれにオーストリアのクセニッツ社が改造を行なっている。この時点では国産の小型ノンステップバスが存在しないため、外国からの輸入となっている。特注なためかなり高く、一台約2000万円という価格は大型のノンステップバスが2400万円という価格から考えるとかなり割高といえる。 | 写真:金沢大学/金沢工大鉄道愛好会「X'press」 '99Summer | | ここでこの2つの共通点を述べると、いずれも運行は地元の有力バス会社に委託していること、そして低料金による損失は自治体が補っていることです。運行する路線も既存のバス路線と競合しないように組まれていることに加え、環状の一方向のみの運行(*6)であることも注目でしょう。つまり、コミュニティバスは早く目的地へ到達するための交通手段ではなく、より気軽に街へ出るための足であるということです。
多くの人の利用を狙うより、そこの街に住む住民たちのための足であることを目指す…。 それがより新しい「新」交通の共通点であるということができましょう。 (*6) たとえば、ふらっとバスの第二ルートである「菊川ルート」では、市内中心部・香林坊から大学病院間が既存のバス路線と重複しており、既存路線が210円に対しふらっとバスは100円と価格差が大きい(いずれも大人・片道)。しかし、ふらっとバスでは多くの住宅地や商店街などを巡回する結果、所要時間が既存路線の2倍程度かかる。また、双方向運転ではなく環状一方通行を選んだ結果、金沢の特徴である一方通行の狭い小径を運行することも可能であるし、同じ本数であっても一方向に集中的に本数を入れることができるため、一時間に4本と効率が良い運転が可能となっている。 | |