多くの家電製品は、物が壊れたら古いものを捨て、買い換えればそれで問題は解決します。これは、修理するよりも買い直した方が安く済むことに起因しています。 しかし、高架橋やトンネルは壊れたからといって安易に捨てることはできません。新幹線の高架橋を架け替えるとすると、その間新幹線の運転はできません。代わりの高架橋を造ろうとすると、代わりの土地から取得しなければならないためおそろしく高額の建設費が必要となります。結局、こうしたものの多くは修理して使うことになります。 私たちが病にかかれば、まずお医者さんにかかります。そして、薬や注射、ときには手術という手段をもって治療にかかります。コンクリートの場合も同様です。診察結果を受けて、コンクリートのお医者さんにあたるコンクリート診断士は、コンクリートに治療を施します。これを「補修」といいます。 営団地下鉄トンネル検査車 |  | 世界初の、赤外線カメラを用いてコンクリートの剥離を検知できるトンネル検査車。トンネル内面を人工的に加熱し、長時間放置する。すると、正常な部分は熱がトンネル外側へ伝わっていくために表面温度が低下するのに対し、剥離した部分では熱が空気の層に遮断されるために低下しない。この温度差を赤外線カメラによって検知する。しかし、この装置によって検地できるのは表面からわずか深さ5mmまでで、深さ20cmの位置から落ちた福岡トンネルの事例を防げていたかは疑問である。 | | | 診察に当たって、お医者さんは心臓の音を聞いたり、口を開けてのどの奥を見ることをします。時には採血をおこない、血液の分析も行います。コンクリートの診察にも同様の事を行います。症状を外から見て把握する「目視」、コンクリートをハンマーで叩いてみる「打音検査」、そしてコンクリートの中身を取り出してより詳細な検査を行う「コア採取」がそれらにあたります。そして、これらの結果から異常の原因を突き止めます。 最初の山陽新幹線でのコンクリート塊落下事故の原因は「コールドジョイント」と診断されました。コールドジョイントはコンクリート内部に隙間が生じ、この部分が大きくなって生まれます。だとすれば、この「コールドジョイント」部分を探しあて、この部分を鉄骨などで支えてやることで落下を防ぐことが出来ます。工事途中でコールドジョイントが発生するおそれがある場合、予め固まってしまったコンクリートの表面部を削り取り、粗くすることによって粘着力(くっつく力)と摩擦力の向上を図ります。 二度目のコンクリート塊落下は、問題となった「打ち込み口」の部分をたたき落とすことで事故を未然に防ぐことができます。ただ、問題となった「逆打ち」工法は現在すでに新たな方法に置き換わっています。 ここで補足としてお話ししておきますが、コンクリートが落ちたからと言って山陽新幹線のトンネルがつぶれてしまうということはありません。トンネルは円形にくりぬいた穴の力が釣り合うことで形を維持しています。言い換えれば、コンクリートはくりぬいた穴の内部に貼りめぐらせた「バリア」みたいなものです。これにより、トンネルの天井から小石が落ちたり、地下水がしみ出てくることを防ぎます。そのため、トンネル内部のコンクリートは鉄筋が入っていないなど強度的にはやや劣りますが、それでも問題は無いとされています。 高架橋からのコンクリート落下事故の原因は3つありましたが、それぞれについて考えていきましょう。 まず、塩害には2種類があり、1つはコンクリートに用いる砂や石の中に含まれる塩分、もう一つは外からやってくる塩分です。 前者については工事前に砂や石を水で十分に洗い流せば問題は起こりません。しかし、塩分を含んだまま工事をしてしまった山陽新幹線などの場合、鉄筋を守るためのコンクリート層である「かぶり」や、時には鉄筋の裏側にあるコンクリートを取り除いて健全なコンクリートに置き換えるで問題を解決します。近年では、電気分解によって塩分をコンクリート表面上に集め、取り除くこと方法が開発されています。 後者の例でいいますと、海岸に作られたコンクリート橋が思い浮かびます。このほか、道路橋によくあることですが、冬に凍結防止剤中に含まれた塩分が原因となることがあります。これらの場合、「かぶり」を厚くしたり、塩分がコンクリートに浸透することを防ぐためすき間の無いきめ細かなコンクリートにしたり、鉄筋に特殊な樹脂を塗るなど、工事段階から塩害に耐えられるようにすることが重要となります。それでも塩害に見舞われた場合、先に述べた方法で塩分を取り除いた後、表面を塗装するなどして塩分がこれ以上入らないための処置を行います。 塩分吸着剤による 腐食進行の防止工法 |  |  |  | 鉄道総合技術研究所(JR総研)と日本道路公団試験研究所が95年に共同開発したSSI工法の写真。左上:腐食した鉄筋、右上:防錆ペーストの施工、左下:防錆モルタルの施工。この塩分吸着材が鉄筋の周囲の塩化物イオンを吸着した上で、腐食抑制効果がある亜硝酸イオンを供給する。従来のモルタルを塗る工法よりも若干高いものの、効果が持続するために結果的には安上がりになる。 | 写真・説明:日経コンストラクション'99/10/22より | | 中性化は先に述べたとおり避けられないものですが、建設から30年以内に中性化が問題となるのは、品質の悪いコンクリートが作られるなど工事に問題があると考えられます。良い骨材(砂や石)を用い、水分を減らしてコンクリートをきめ細かくし、十分にコンクリートを締め固めれば中性化の進行を抑え、寿命を延ばすことができました。しかし、問題が起こってしまった場合、コンクリート表面に二酸化炭素や水の浸透を防ぐためのコーティングを行い、さらに状況が深刻な場合は鉄筋の外側にあるコンクリートを取り除き、鉄筋のさびを落とした上で鉄筋とコンクリートにコーティングを行います。 アルカリ骨材反応はコンクリート中のアルカリ分と、アルカリ分に反応する「反応性シリカ」、そして水がある時に起こります。従って、この3つのうちのどれかをなくせば問題は起こりません。最も理想なのは「反応性シリカ」を工事の段階でコンクリート中に混ざらないようにすることですが、もしも反応が起こってしまったならばこれ以上の膨張を防ぐべく、コンクリート表面に水を弾くためのコーティングを施すのが最も有効な方法になります。しかし、コンクリート中にすでに水分を多量に含んでいる場合、膨張は進行し続けることになります。これを解決する方法は、残念ながらまだありません。 アルカリ骨材反応における 吸水膨張の3つの条件 |  | アルカリ骨材反応は反応に必要な3つの条件を満たした時にはじめて発生する。逆を返せば、条件のうち1つでも原因を取り除けば、反応はおこらないことになる。 | | | |