あとのページで全文が掲載されていますが、この本のためにJR西日本へ質問状を送り、その回答をいただきました。その中で「駅のトイレを洋式化する予定はなく、トイレットペーパーを入れる計画もない」との旨のことでした。さて、この節では日本のトイレ事情を考えていくことにしましょう。 「和式便器」。その名の通り、この形のものは日本にしかありません。では、諸外国では全て洋式なのか?といわれると、それもまた違います。 他のアジア諸国にも「しゃがみ式」便器が存在します。しかし、日本のものとの大きな違いは「金かくしがないこと」です。 日本人がアジア諸国へ出かけると、金かくしのないしゃがみ式便器に遭遇します。ですが、右の図を見て、どちらの方向に向いて用を足せばいいかわかりますか?  ……正解は下側です。このように、初めてみる異なる形の便器に、似ているが非なる使い方にとまどうことになります。逆もまたしかりでしょう。 欧米など、腰掛け便器圏から来た旅行客はさらにとまどうことになります。結果、金かくしに腰掛けてみたり、地べたに座って用を足してみたりします。 和式便器の誤った使い方 |  |  | 初めて和式便所にとまどう外国人は決して少なくない。そのためJapaneseInnグループでは「和式便器の使い方」という小冊子を作り、無料配布を行っている。 | 図:トイレットのなぜ? | | 人間は進化の過程で、他の動物とは異なり二本足で歩行できるようになりました。しかし、同時に排泄の度に肛門に汚物が付着し、何らかの方法でお尻を拭かざるを得ないという代償を負ってしまいました。その方法は様々です。 このうち紙を用いるのは全世界の人口のうち1/3で、のこりは「指と水」「指と砂」「小石」「ロープ」「海草」「植物」「雪」など様々です。しかし、だからといって紙を準備しなくともよい、というわけではありません。なんらかの手段を準備しておく必要があるでしょう。なければ、手持ちのありとあらゆるものを使って拭かねばならないと言うことになります。驚くべきことに、ハードカバーの本で拭いたと思われる痕跡もあったりなんかします。もっとも、諸外国のレストランなんかにも紙は置いていないところはあるので、絶対悪というわけではないでしょうが。 スウェーデン式ハンドビデ |  | ヨーロッパでは局部を手で洗うという習慣がある。ちなみに、靴や髪を洗うのにも使えたりもする。 | | | ここまでに述べた二つの点は、日本と諸外国の文化の差、そして日本における公衆便所の考え方です。問題は、外国人旅行者がその「日本特有のトイレ事情」がわかっているかという点です。トイレに「和式便器の使い方」の説明や、入り口に「便所に紙はありません。あらかじめ紙をお買い求めください」と外国語で書かれた案内板を、私は今までに見たことはありません。そうなると、あらかじめ「予習」しなければ、日本に来て早々に困ることになるのは目に見えています。
「アンビリーバボー!」。私たちには別に何も感じなくとも、外国人からすれば非常識きわまりない!と言わしめるかも知れないトイレの構造を今度は説明します。 同じ人間でも男女の性をはっきり分け隔てる国々は、今も数多くあります。アメリカでは男女のトイレを隣り合わせに作ることさえ敬遠されています。しかし、日本では場所がないためか、それとも建築コストをケチりたいからか、男女兼用のトイレが少なくありません。実例で言うと北陸鉄道鶴来駅もそうですし、学校の職員用トイレでも、男女共用のものが13%あるそうです(1994年10月12日、朝日新聞)。二人以上入れるトイレならば、男女の性差を厳格にするべきというのが諸外国の常識です。 駅のトイレの中には、入り口から直接、もしくは鏡を写して便器が見える構造のものが結構あります。このような構造も外国人には「アンビリーバボー」なのだそうです。 「W.C.」をはじめ、外国人は直接に「トイレ」という表現をするのを嫌います。アメリカではトイレを「REST ROOM」と表現し、「トイレに行って来るわ。」と言わずに「電話をかけてくるわ。」という言い回しをします。余談ですが、日本人は「トイレ」といいますが、これは「外国語」のぼかしを利かせているからで、やはり日本語で「便所」という表現は慎むことが多くなりました。とにかく、外国人はそれほどにまでトイレを連想させることを嫌うわけですから、明らかに視野に便器が見えるなどと言うことはまさしく「アンビリーバボー」なわけです。もっとも、トイレの話しかしないこの文章も、彼らにしてみれば「アンビリーバボー」になるのでしょうけど。 ポーランドの公衆便所を示すサイン |  | △は男性用、○は女性用を示す。 街中に「○△」とだけあってトイレと気づくのは、その「約束」を知る者だけだろう。 | | | トイレを意味する表現は諸外国ではたくさんあると述べましたが、トイレを表すピクトグラム(絵文字)は日本にもたくさんあります。 多くの場合、男性用は青、または黒色の、スーツかタキシードを着た姿、女性用は赤色か桃色でスカートをはいた姿です。こういったスタイルのものは万国共通なのですが、中にはピクトグラムを用いずに「公衆便所」と記す例(外国人に漢字を読ませるのは至難の技)や、色を使わない例もあります。 今までに一番困ったのは、確かJR西日本か九州管内の駅だったと思うのですが、あまりにもピクトグラムが美しく書かれていたため、トイレだか何なのか、また男性用はどちらなのか大いに迷ったことがあります。具体的に言うと、金属の四角いプレートに金色で横顔を書いたものでした。日本人でも迷うものが外国人に使えるのかというのは甚だ疑問です。 |