絶海の中のだいとう |
神風に吹かれて- 初出:金沢大学鉄道愛好会会報「X'press」 |
この島へ渡るのには、ちょっとした覚悟が必要である。船は片道4,530円だが13時間、航空機では2時間だが台湾に行った方が安いほど。時間も金もかけなければ渡れないのだ。加えて、周囲には北大東島しかない。周囲が岩礁であるこの島よりも、近場に魅力的な島が点在する沖縄本島や宮古・石垣などの先島諸島と比べると、どうしてもそちらに目移りしてしまう。 この島を旅することを決めていた私だが、そんな理由で「そんな島に渡る酔狂な人間など数少ない」と高をくくっていた。これが失敗の第一幕だった。 まず、帰りの航空券が入手できなかった。旅行会社からの「キャンセル待ちです」との無情な返事に、しばし呆然としたものだ。とりあえず、翌日には確保できたのだが。 入ってすぐの応接間に、明らかに「ユース(若い)」じゃないだろ、という外見の方がいらっしゃる。高木ブーじゃないのか?と思えるこの方を、私は心の中で『長老』と名付けた。 「明日はどこへ行きますのん?」 キャンセル待ちの私に、明確な行き先などない。…そんなことを考え、とまどいながら行き先を答えた。しかし『長老』はさほど驚きもせずに、 「あー、いま年度末だからね。駆け込みの工事とかが多いんだわ。」 とあっさり答えた。なるほど、納得である。 「それやったら、南大東も候補においといて、ほかの場所も調べたらどうですのん?のんびりするだけが目的やったら南大東よりもええ島、なんぼでもありますで。」 聞けば既に南大東をはじめとする沖縄48島を全て制覇しているという。 偏見にとらわれ無ければ新たな発見もある。 「伊平屋島」。 別名を「天の岩戸」といい、天照大神がお隠れになられたという伝説の場だという。 そんな私だから翌朝、まずは昨日も出向いた船会社、大東海運の事務所へと向かい、開口一声こう尋ねた。 「南大東島行きのキャンセル、でていませんよね!?」 もはや付加疑問文である。というよりも出ているなんて微塵も思っていなかったりする。 「ありますよ。4530円になります。」 ガーン!!なんたること!しかもこの『よかったですね』と言わんばかりの表情に加え、既に乗船券を準備しているあたりが「すんません、やっぱり今の話し、無かったことに…」などという弱音を吐かせないだけの圧力をかけている。 こうして私は「やはり」南大東島行きの旅人となることが決定し、次第に鉛色へと染まりゆく空を背に、虚ろな瞳で泊港を彷徨い歩いていた…。 |
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