トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.120−聞こえない声

 封印される直前、『写身』に心とともに左目を与えた『真の』小狼。そのことで、彼の魔力も半減する。時が流れ、封印である「幽閉の刺青」を破る力を持つほどに成長するまで、彼はずっと待っていた。…己の時間と、自由を対価にして…。
 侑子もまた、ずっと待っていた。小狼が、自ら封印を破るその日を。だが、その目覚めはもう一人の小狼の右目に施した封印が途切れた瞬間を意味する。なぜならば、その心が、持ち主の元に戻ってしまうから…。
 
 その真実を知っていたファイ。たとえそれが己のものでなくとも、受け取った者にとってそれは「真実のココロ」なんだ…。そう考える彼の目の前で、今まさに写身の小狼に与えられた「ココロ」がカラダを離れ、元のところへ還ろうとする。それを阻もうとするファイ。彼は、自らの身に危機が迫ろうとも頑なに封印してきた「魔法」を、「小狼らしさ」を守るためについに発動する!
 
 …だが。
 魔法により引き留められたココロを一握りするや、それを路傍に捨て去るように手放した小狼。虚ろな瞳で「魔術師」を一瞥するや、無慈悲な左脚が彼を一蹴する。倒れ込んだファイの喉首を掴む小狼。「その目が魔力の源か。…羽根を取り戻すために、これも必要か」
 
 地上では、さくらの身体が魂に引き寄せられるままに消えてゆく。彼女を抱えていた黒鋼に、モコナの金切り声が聞こえる。
「小狼とファイが水から出てこないの!」
 異常を悟り、水に飛び込む黒鋼。そこで見たのは…左目から血を流す魔術師と、機械と化した少年の姿だった…。