さらば、だいとう
神風に吹かれて- 初出:金沢大学鉄道愛好会会報「X'press」

 出会いあらば別れあり。短いながらも充実したこの島での滞在も今日までだ。
 本来は一泊のみで北大東島へと渡り、そこで一泊する予定だった。しかし、波が高くなり船が欠航、やむを得ずもう一日滞在したという経緯がある。
 とはいえ、私には北大東島へ渡らなければならない使命がある。…なーんて言ったらかっこいいね。単に飛行機に乗るためには北大東島に渡らなければならない、ただそれだけなのだが。
 とはいえ、これがなかなか難しい。今日欠航した船が明日動くとは限らない。

 南大東島から北大東島へ渡る方法は、3つある。

  1. 貨客船「だいとう」
  2. 琉球エアコミューター
  3. 渡し船

 最も安いのは[1]で680円。しかし週一便。[2]は速い(15分)が6800円で、週四便。[3]が一番手頃そうに見えるが、朝一番しか出してくれないらしく、しかも料金が15000円とべらぼうに高い。ちなみに、[4]「泳ぐ」という選択肢はナシね。わずか8km、されど8km。それでなくともうねりが高い太平洋、もしも沈めば3000m下の海底である。そんなわけで、北大東島はまことに近くて遠い島なのだ。

 こんな選択肢もある。飛行機は那覇〜北大東島〜南大東島〜那覇の順にフライトする。私が持つ航空券は南大東島経由と記されているから、北大東島から乗らなくとも座席自体は確保されている…。鉄道ではそんなのもありだが、飛行機の場合はそれでもキャンセルが発生するらしく、手数料がかかるという。しかも、その手続きはチケット発券場所以外できないというではないか!! 
 いま、新たに2万を越す大金は積めない。そういうわけで、結局予定通りまたも貨客船だいとうで北大東島へ渡ることにした。とはいえ、失敗したらそれこそ「亡命」となるので、一か八かの大一番である。

 日刊海事社のホームページによると、貨客船「だいとう」の南大東島出航は13:00、北大東島到着は13:40。が、役場へ問い合わせたところ、「14:00に港に来てください」とのこと。果たして時間に間に合うのだろうか。朝9時段階で、船は港にまだついていない。(到着予定は07:10。)運命をかけたタイムトライアルが、いま、始まろうとしている…。

13:05 宿の精算を終え、近所のおばちゃんの車で港へと向かう。この島にはバスやタクシーはない。予約の際も「適当に車を拾って来てください」と言われたが、確かにこの島にはそんなアバウトさを許す空気が漂っている。

13:10 西港へ到着。早速乗船券を購入。ついでに北大東島での空港への移動手段を問うが、やはり「車を拾え」とのこと。すでに船は入港しているが、荷役はまだ終わらない。
 はやる気持ちは抑えながらも荷役を眺める。船は岸壁の真下にあるので、荷役はコンテナをクレーンでつり上げ、船の甲板へと下ろす形だ。載せる荷物はコンテナだけではない。真新しい軽トラがある。どうやって積むのかな?と思うと…、下からチェーンでくくりつけ、やはりクレーンで持ち上げた。大八車に乗せられた2頭の牛が到着。何をするかと思いきや、やおらロープで牛の腹をくくりつけ、クレーンで持ち上げる。あああっ!もしやこのパターン!脳裏に巡ったメロディは、

『♪かわいい仔牛 売られていくよ〜
 寂しそ〜な瞳で 見ているよ〜』…

ああっ、七実様七実様、カウベルよカウベルよ〜〜〜!!(爆)
ちなみに、時計の針は既に14:00を廻っている。

14:20 乗客の手荷物が入った最後のコンテナがつるし上げられる。と同時に、フォークリフトが鋼製の立方体に近いカゴを持ってくる。
 柵が付けられているところも相まって、さながら「オリ」に見える。そう、荷物だけではなく、人もまたクレーンに吊されて乗船するのだ。

 私のそばにいた婦人が話しかけてくる。

「今日はマシな方。波が高いときは岸壁まで船が近づけないから…小舟に乗って海に出るでしょう、それで…」

うん、うん。

「波の高低差を活かして飛び移るの。」

ほええ〜〜〜っ!! 失敗すると、ドザえもんである。そんな命がけの航路だからこそ、かつては老人・子供は乗船できなかったとか。そんな話を聞くうちに、係員に「オリ」に入るよう促される。いよいよだ。

14:25 高らかに笛が鳴る。と同時に軽い衝撃を受け、オリは天高く舞う。見る見る離れていく陸地。眼下に広がる太平洋。…こわい(^_^;)

14:28 乗船、船尾部のサロンに陣取る。隣に座るおじさんが、その場のメンツにビールを配る。なるほど、アルコールの「酔い」で船「酔い」を紛らわそうという考えらしい。その横で「ビールはこれ一本まで!」と誰かが厳に言いつける…。まだ時化の余韻が残る海は、行きとはくらべ物にならない揺れを生じさせる。

14:50 待ちわびていた出航の瞬間がきた。離れゆく岩礁。より激しくなる揺れ。とにかく、50分の辛抱だ。

15:15 しかし、一時間もたたぬうちに船酔いに屈服。結局酔い止め薬のお世話に。ついでに先にもらったビールを飲む。既に蓋を開けていたビールはいつしか気が抜けて、苦さばかりが目立つ。そして酔い止めに乗じてアルコールが余計に回る。気持ち悪い〜…

15:35 窓から北大東島の岸壁が見える。いよいよだ。サロンの人たちに別れを告げ、甲板へ向かう。導かれた先にいるあの黒い物体は…「ドナドナだ〜っ!」。そう、先に述べた、あのウシである。マニアな方は七実様でも可。それにしても、裸のまま?

15:42 北大東島に接岸完了。こちらもカゴでの上下船である。残り時間はあと18分。下船するのは私一人。促されるままにカゴへと移るや、再び急上昇する。南大東島以上に岩場が目立つ北大東島へ降り立ったのは、15:46のことだった。

15:48 そこへたまたま見送りに来ていたおばちゃんをつかまえ、事情を話して空港へと向かってもらう。こちらのただならぬオーラを感じ取ったのだろうか、有無も言わず緊張がみなぎるままに7分かかるという道のりを、わずか4分で駆け抜ける。ようやく見えてきた空港、そして乗るべき飛行機、琉球エアコミューター・DASH-8。「プロペラが回ってない!まだ大丈夫よ!」私は慌てながらもおばちゃんに心からの礼を言う。そして、ダッシュ。あとはカウンタで搭乗手続きを済ませるのみだ!

15:52 ようやく到着した北大東島空港。既に他の客の搭乗手続きは終わっている。

「すいません!搭乗手続きお願いします!」

しかし世の中そう甘くはない。

「飛行機出発の15分前までに搭乗手続きをお済ませください。」

そう、すでにキャンセル待ち客へ席が分け与えられた後だったのだ。しかし、ここで引き下がると北大東島亡命だ。すべての努力も水泡へと帰す。必死に訴える。食い下がれない。
 するとカウンター嬢、ついに勢いに負けたのか、しぶしぶながら最後にチケットを手にした客の手から搭乗券を取り戻す。席は1−H。手にした搭乗券には二つの半券がついていた。一つが南大東まで、一つが那覇まで。よくよくそれを凝視する。そして肩の力が抜けた…。

 39人乗りのDASH-8は琉球エアコミューターの新型機で、それまで多かった欠航の数をグンと減らした。が、私はまだ知らなかった。1−Hという席番、39人という定員、一番最後の搭乗者であるということの意味を…。

16:04 遅れながらも搭乗を開始。そこで私は機内を見て、思わず目を丸くした。定員を増やすために最後列の椅子は4列ではなく5列。それだけではない。加えて搭乗口側の一脚は、なんと尾翼方向、すなわち後ろを向いていたのだ。無論指定されたのがそこだというのは言うまでもない。乗れただけでもまだ御の字である。後ろ向きのフライト経験、もはやこの先あるまいて…。

16:12 ようやく飛行機は北大東島を出発。旋回の後離陸、島をぐるりと回った後、途中経由地である南大東島へと向かう。眼下の景色は、サトウキビ畑の茶色からやがて海の碧青色へと変わる。と同時に見覚えのある小船の姿が見える。北大東島の実滞在時間はわずか30分。次の探訪こそは、ゆっくりとしたいものだ。

16:22 飛行機は短いフライトを終え、南大東島へと離陸。わずか1時間半なのに懐かしさがこみ上げる。フライト上は836便(北大東→南大東)と868便(南大東→那覇)で異なるものためか、一旦機内の乗客全員を上陸させたが、やがてアナウンスがかかり、再度機上の人になる。

16:44 シートベルト着用の合図が告げられ、機体はやがて宙を舞う。DASH−8は名残を惜しむかのように南大東島上空を旋回した後、高度を上げながら茫洋なる太平洋へと向かう。眼下に見えていた南大東島も、機体が雲の中に入るや、たちまちのうちにその姿を隠した。今度は、今度こそは本当の別れなのだ…。

 浅き眠りの狭間で一瞥した窓。とぎれた雲の隙間から見えたのは、やはり海だった。

17:55 そして飛行機は、那覇の地へと下り立った。

 3日間の短い滞在期間であった。今となっては船の14時間も、航空券の22,130円も惜しくない。充実感を胸に市内バスに乗り込み、出発の地、泊港へと戻ってきた。「だいとう」がいるべき場所はに、いうまでもなく船はなかった。きっとまだ太平洋の上を航海しているのだろう。もう一度行きたいものだ、あの土地へ。しかし、名残を惜しむにはまだ早い。まだこの先も旅路は続くのだから。安謝新港にたどり着けば、次のステージへと誘う船が私を待っている。だから再びたどり着くその日まで、今は別れを告げておこう。

「あでゅぅ〜!」

コンテンツ


ゲテ物探して三千哩

 ゲテ物達の想ひ出
 知られざるJRの迷作達
 沖縄の「味」
 異郷の味わい…シンガポール
 番外編〜どこかヘンだぞ、このジュース〜


神風に吹かれて

 南大東島夢紀行
 絶海の中のだいとう
 ささやかな小舟のだいとう
 ふしぎの島のだいとう
 南だいとう共和国
 さらば、だいとう


瑠璃色の刻

 Let's Start Hostling!!
 Pretend Oneself
 The Memory of Hostels
 Break out !!
 Searching for LAPUTA , and...


私が愛した羽丘芽美
(前編)

 奇人、シンガポールを旅する。
 日本の代表文化?セーラームーン
 ああ、愛しの芽美ちゃんっ


私が愛した羽丘芽美
(後編)

 北の大地にしっぽの残像を求めて
 襟裳岬…北海道三大ガックリ名所!?
 道東へ…BGMは「約束はいらない」!?
 北へ、北へ…真の北海道、ここにあり!
 終わりよければ全てよし…だが!?


TSUBASA WEBRARY
たびにでようよ
 [旅行のTips・紀行文]
Neo Nostalgia
 [風景写真集と撮影地情報]
Dreams on a Railway
 [さくらちゃんにもわかる
  鉄道工学講座]

Tsubasa To...
 [ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLe−
  ファンサイト]

コミケにいこう!
 [同人誌即売会出展のTips]
音の小箱
 [MIDIライブラリー@ゲテ研]
かってに北陸鉄道
 [北陸鉄道史料館]
TSUBASA Gateway

 [登録可能なリンク集]
<< Prev PAGE Next PAGE >>
ホームページへ >>
YAHOO! - goo - infoseek - excite - LYCOS - InfoNavigator - 旅なび