「鉄道」というシステム
chapt.01−その先に続く鉄路
Dreams on a Railway
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 まず、鉄道は大量輸送が可能です。自動車の場合は「車間距離」が必要ですし、一台一台を動かすための動力スペース(エンジンルーム)も必要です。それに、4人乗りの自動車に4人乗ることはあまりなく、だいたい1〜2人。これは非常に大きなムダです。下の値は理論値で参考にしかなりませんが、道路交通の場合、鉄道の1/3〜2/3程度の輸送力しかありません。ただ、この表はあくまで定員通り乗車したときのこと。実際はバスや自動車の方が利用効率が高いということもあるので注意してください。

鉄道と道路交通の輸送力比較

鉄道と他の交通との輸送力比較

必要な幅:鉄道=複線、 バス・マイカー=4車線道路、定員:鉄道=12両編成 鉄道・バスとも定員着席として計算。

表:鉄道工学ハンドブックより

 注目するべき点は幅1mあたりの輸送力で、鉄道の場合必要な用地が少なくすみますが、自動車の場合、輸送力が大きくないにも拘わらず、その2.5倍もの用地が必要になります。アメリカの大都市では、街の1/4が道路になったにも拘わらず、渋滞が解消されていないと聞きます。自動車を交通の主役にした場合、都市の規模は人口50万人が限界と言う人もいますが、実際に高台から都市をみますと、道路と駐車場がいかにスペースを無駄に使っているかがよくわかるでしょう。アメリカでは1000人のうち、自動車を持っている人は63人。日本の場合は27人。しかし、市街地に出来る有効面積あたりの自動車台数は、アメリカで100台とすれば日本ではなんと1232台。実に12倍です。
 鉄道は少ない土地面積で大量輸送が出来ます。しかし、飛行機にはかなうまい、そう思ってはいませんか?
 実は、東海道新幹線の場合、車両基地などいっさいを含めた東京〜新大阪間で必要となった土地は10km。これに対して、新東京国際空港(成田空港)は11km。空を飛ぶから土地問題は無縁…などと言うことは決してないのです。

 つぎに、鉄道はレールという定められた道から外れることが出来ないと先に書きましたが、逆に運転士はハンドル操作をしなくても良いことになります。つまり、線路さえしっかりしていれば、高速で走行しても支障がないと言うことです。車の場合、ちょっとしたハンドルのぶれで車は左へ右へと動くため、直線走行も意外と難しいものです。特に高速走行の場合、スピードが速いのでわずかなハンドルのぶれでもあっという間に本来進むべき道から外れていきます。だから高速道路など、一車線あたりの幅が広くなければ、また分離帯を設け、対向車と間近にすれ違うことをなくさせなければ、時速100kmを越えて走ることは心理的に難しくなります。

 第二点は、電気運転が出来ることです。なぜディーゼルよりも電車の方がいいかというと、石油から前に進むためのエネルギーを取り出すために要するエネルギー効率は、電車の場合0.3、ディーゼルの場合0.2。電車の方が10%程度優れています。原料から電気となってエネルギーとして活用されるまでをさらに詳しく説明しますと、電気を作る過程で0.42(58%が無駄に消費されていく)、高電圧から利用しやすい電圧に変え、発電所から街や家庭に送る過程で0.92、電車のモータ効率が0.82です。発電過程でのエネルギーロスを改善すれば、きっとより効率が良くなるはずです。くどいようですが、自動車の場合、エネルギー消費は電車の5.7倍。先に述べた「不要なスペース」を動かすための動力(自動車は1台1t以上あります)、定員通り乗らない現実がよりエネルギーのムダを大きくしているのです。

  第三点は、鉄道の安全性、そして定時性(*1)が高いということです。線路は鉄道しか走ることが出来ません。したがって鉄道はほかの車などに邪魔されずに運転することができ、ラッシュ時でも時刻通りに運転できます。また、みっちりと教育を受けた、文字通り「プロ」の運転士が、その列車のために指示された信号に従って走りますので、事故の起こる確率も小さくなります。バスの場合、運転手がどれだけがんばっても交通渋滞にも巻き込まれることもありますし、時には他の自動車の事故に巻き込まれることもあります。ですが、「道路」が共有物である以上は仕方ないことです。

 では、交通渋滞はなぜ起こるのでしょうか。鍵は言うまでもなく、自動車の台数にあります。ある道路で10分間あたりに走ることが出来る車の台数を100台とします。この道路に110台の車が流れ込みますと、10分間につき10台の車があふれることになります。これを1時間繰り返すと60台の車があふれます。すると車が数珠のようにつながることになります。もちろん、道路を作る行政(*2)も渋滞が起こらないよう、その道路にどれぐらいの車が走るかを考えます。しかし、道路を作っている間にも車の台数はどんどん増えていきます。行政もそのことは頭に入れてはいますが、予想を越えて車が増えているのが現状です。さらに、昔に作られた道路の大半は、そう多くない交通量しかさばけない上、道沿いに商店や街が発達してきたので簡単に道路を拡幅(*3)ことも出来ません。

名古屋市の風景
大都市では、 増え続ける自動車のために、 道路を拡幅するなどして対処している。
しかし、 多くの場合は土地の確保が思うようにいかず、 渋滞が発生する。
拡幅されれば、 都市のかなりの部分を道路に占領されることになる。
写真:筆者(1999年11月)

 事故も、鉄道なら多くが運転士がうっかり信号を見落としても自動的に列車を止める装置が完備されています(*4)。ですが、自動車の場合、赤信号を無視すれば他の自動車に当たることもありますし、時には歩行者をはね飛ばしてしまうこともあります。このほかにも鉄道のならば「万一の失敗」が起こった場合、随所に自動的に列車が止まるようになっています。利用者あたりの事故による死者数は、鉄道を1とすれば自動車は13、航空(*5)が20。ですが、移動距離あたりで見ると鉄道を1とすれば自動車は15にもなります。ちなみに航空(飛行機)は0.4です。このように、鉄道の安全性はかなり優れたものだといえるでしょう。しかも、鉄道事故の中には、踏切事故や立ち入り禁止の線路内に立ち入って列車にはね飛ばされて起こる「明らかに相手が悪い」事故も数に含んでいます。ですから、純粋に鉄道が責任を負う事故はほとんどないと言ってよいでしょう。

 このように書くと今度はさぞや鉄道がいいものであるかのように思えてきます。しかし、この鉄道システムも万能ではありません。

*1 定時制=時間通りに列車が動くこと。
*2 行政=お役人。ここでは市役所など、都市計画を司る部署を指す。
*3 拡幅=広げること。
*4 「ATS」といわれる装置がこれにあたる。
*5 航空=飛行機のこと。
 

はじめに
はじめに
参考文献
謝辞・出典
リンク・転載について
chapt.01
その先に続く鉄路
レールと鉄道
「鉄道」というシステム
鉄道「会社」のさだめ
時の流れが変えたもの
chapt.02
のぞみ、光り輝く
「標準軌」と「狭軌」
「標準軌」と「狭軌」
「直流」と「交流」
「TGV」と「ひかり」
そののぞみ、光の如く…
chapt.03
街を駆ける天使たち
天を舞うリボン
「下」を向いて歩いたら
街駆ける白馬
さらなる「新」交通
歴史との共存
chapt.04
時代が遺した巨構
上を向いて歩く時代へ
コンクリートとは何だろう
コールドジョイント
コンクリートの弱点
試行錯誤の光と影
過去への償い
未来への道標
chapt.05
光と影を抱きしめたまま
CHRoNiCLE−鉄道と事故の戦い
BRAKE−制動装置
BLoCK−閉そく方式
LoCK−連動・鎖錠
outlogue.01
青い水
汚れのメカニズム
和式便器と洋式便器
国際化とトイレ
列車内トイレの功罪
トイレ・近未来
outlogue.02
トイレ・その先に
公衆トイレの科学・駅編
公衆トイレの科学・列車編
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