BLoCK−閉そく方式
chapt.05−光と影を抱きしめたまま
Dreams on a Railway
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 鉄道が巻き起こす事故のうち、最も恐ろしいのは何でしょうか?
 …それは、本来ぶつかりあわないはずの列車同士が衝突することです。
 列車同士の破壊エネルギーにより、乗客や車両に大きなダメージを与えるのみではなく、時には堤防や鉄橋からの転覆などの二次災害を巻き起こすおそれがある、衝突。
 では、一本の線路の上を行き交う列車同士がぶつかり合わないように運転することとはどういうことでしょうか?
 …答えは簡単です。「ぶつからないように距離を開けて列車を運転すること」です。

 列車の間隔を開ける方法は二つあります。
 「時間間隔法」と「距離間隔法」です。

 「時間間隔法」は時計を頼りにする方法で、鉄道草創期のイギリスでは、先に列車が出発してから10分が経過するまでは「停止信号」、その後さらに7分間は「注意信号」が表示され、併せて17分が経過してようやく「出発信号(オールクリアー)」が出されるという原理でした。

 この方法には、問題点が2つあります。

 1つは、一時間あたりに走らせることができる本数が限られてしまうことです。この方法だと運転できるのは1時間におおよそ3本。これでは列車に対する需要が増えてきたときに追いつくことができません。

 もう1つは、それぞれの列車が同じスピードを保ち続けなければならない、ということです。
 これは大きな問題で、万事何事もなく順調に進めば良いのですが、仮に前方の車両が故障で立ち往生してしまった場合、後ろから来る列車はどうすればよいのでしょうか?
 ブレーキ力が小さい初期の鉄道ではぶつかる以外にすべはなく、事実こうした事故が過去にありました。

さくらと時間間隔法

 「時間間隔法」と書くと特別なことをしているかのように見えるが、たとえば「きもだめし」をするときのことをイメージしてほしい。

 いま、A、B、Cの3つの組があり、洞窟の中できもだめしするとしよう。

 先生は、ある一定の時間がたてば、次の組をスタートさせる。Aの組が出発してから、3分後にBの組を、そのさらに3分後にCの組を出発させれば、Aの組がBの組に、また、Cの組がBの組に追いつくことはない。

 しかしながら、Bの組の一人が「ほえ〜」「こわいよ〜」「前に進みたくない〜」とか言い出すと、その後から来るCの組が追いつくのは時間の問題となる。

 鉄道だったらこれで「追突事故」、事故一件である。

画像:テレビアニメ・カードキャプターさくら第17話「さくらのこわーいきもだめし」より
(C)CLAMP・NHK・マッドハウス

 それでは、もう一つの「距離間隔法」とは何でしょうか?

 距離間隔法の基本となるのは「閉そく」と呼ばれるものです。これは、「一本の線路にあらかじめ区間を定めて、その区間に列車を1本しか入れないようにする」ものです。
 この方法のもっともシンプルで、かつ決定的な方法が、「タブレット閉そく式」という方法です。原理を下の図に記しましたので、ご覧ください。

 先に述べたとおり、閉そく区間の原則が「1つの区間に1つの列車しか入れない」ことを確実にするため、その区間を通るために必要な『通行手形』(=通票、タブレット)」を持っていなければ通ることができないようにする…。
 これがタブレット方式です。

タブレットの交換シーン

 タブレット閉そく式とは、両駅に一対の通票閉塞器があり、相互に電気的に鎖状されているが、両駅で一定の手順で扱うと、発駅側で1枚だけ金属製円盤の通票が取り出せる仕組みになっている。これを列車の運転士が携行して着駅に渡し、両駅の共同操作でそれを着駅の通票閉塞器に納めて元の状態に戻る。
 この方式では、信号機との間に連鎖がなく、これらを駅長によって補う。そのため、タブレットの授受などの扱いが煩雑な点が、欠点とされている。

写真:筆者

 現在、主に使われている閉そく方式(=「自動閉そく式」)は、次のようになっています。
 まず、A駅、B駅の間をいくつかの区間(閉そく区間)に分けます。
 次に、いま、列車がどこにいるのかを、電気的に調べます。具体的には、レールに電流を流しておき、この上を鉄の車輪が通ることで左右のレールが電気的に結ばれます。こうして、列車の有無を知ることができます。

 その閉そく区間に列車がいれば、信号機に「停止信号」を出します。下の図では、区間2〜3に列車がいるので、3の信号機は「停止信号(=赤)」になります。
 列車がいる区間から2つ以上隔てた場合、信号機は「進行信号(=青)」になります。列車Aは行く先に列車がいないため、信号1と2は進行信号を、列車Aから2つの閉そく区間を隔てた信号5も進行信号を表示しています。
 一つ先に列車がいる場合はどうなるのでしょうか。いま、区間2〜3に列車がいますので、信号機4は「その先の区間には列車がいますよ」ということを運転士に教える必要があります。それが「注意信号(=黄)」です。注意信号を指示された場合、速度は時速45km以下で運転しなければならない、という決まりになっています。
 駅間を細かく分ければ、それだけ多くの閉そく区間ができますので、一時間あたり走ることができる列車の本数を増やすことができます。

 これが現在主に使われている自動閉そく方式です。

 

はじめに
はじめに
参考文献
謝辞・出典
リンク・転載について
chapt.01
その先に続く鉄路
レールと鉄道
「鉄道」というシステム
鉄道「会社」のさだめ
時の流れが変えたもの
chapt.02
のぞみ、光り輝く
「標準軌」と「狭軌」
「標準軌」と「狭軌」
「直流」と「交流」
「TGV」と「ひかり」
そののぞみ、光の如く…
chapt.03
街を駆ける天使たち
天を舞うリボン
「下」を向いて歩いたら
街駆ける白馬
さらなる「新」交通
歴史との共存
chapt.04
時代が遺した巨構
上を向いて歩く時代へ
コンクリートとは何だろう
コールドジョイント
コンクリートの弱点
試行錯誤の光と影
過去への償い
未来への道標
chapt.05
光と影を抱きしめたまま
CHRoNiCLE−鉄道と事故の戦い
BRAKE−制動装置
BLoCK−閉そく方式
LoCK−連動・鎖錠
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青い水
汚れのメカニズム
和式便器と洋式便器
国際化とトイレ
列車内トイレの功罪
トイレ・近未来
outlogue.02
トイレ・その先に
公衆トイレの科学・駅編
公衆トイレの科学・列車編
公衆トイレの科学・考察編
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