「コールドジョイント」。山陽新幹線のトンネル事故で、多くのマスコミが事故原因をこのように報じたことかと思います。連日のように叫ばれた「コールドジョイント」。その言葉は、土木を専門に学ばない人たちでもほとんどの人が耳にしたことがあるでしょう。しかし…、コールドジョイントとは何でしょうか? 何らかの理由で、本来一つであるはずの物体が一体化していない場合、そこには「不連続面」というものがあります。特にコンクリートにおいて一体化がされていない場所を「コールドジョイント」と呼んでいます。たとえば、トンネルへコンクリートを流し込む際に、トロッコやポンプを用いて現場へコンクリートを運び込みます。ですが、なんらかの理由でコンクリートが連続的に流し込めないと、先に流し込んだコンクリートが固まってしまい、あとから流し込んだコンクリートと完全に一体化させることができません。このとき、先に流し込んだ場所と後から流し込んだ場所との間にできるのがコールドジョイントです。 このほかにコールドジョイントが起こりうる状況を考えてみましょう。たとえば、コンクリートを流し込む作業中に夜が来て仕事を中断した後、翌朝になって再開します。すると、前日に作業していた場所のコンクリートは既に固まっているため、コールドジョイントが発生します。山陽新幹線が建設された当時の技術力では、トンネルの工事の際に「アーチ部(天井部分)」と「側壁部(かべの部分)」を分けて工事していました。そのため、どうしても先に工事した部分にコールドジョイントができあがります。 まだコンクリートが固まりきっていないにも関わらず、型枠を外そうとして力を加えてしまうと、型枠にくっついたコンクリートが動いてしまい、元のコンクリートの間にすき間ができてしまいます。こうして出来た場所もコールドジョイントです。 山陽新幹線福岡トンネル コンクリート塊剥落事故 |  |  | 「はく落上面には刃物で切ったようなきれいな面があった」というコールドジョイント面。コンクリートの強度は十分、トンネルの地山条件も良かった。事故の発生原因は、施工不良とも不可抗力とも言われている。 | 写真・図:日経コンストラクション'99/09/24号より | | ポンプを用いてコンクリートを流し込むとき、ポンプの中でコンクリートが固まってしまうとどうなってしまうでしょうか? ………この場合、ポンプを使ってコンクリートを流し込むことができませんから、作業を中断せざるを得ません。その結果、中断前に流し込んだコンクリートが固まってしまい、コールドジョイントが発生します。それに加えて、ポンプが詰まった場所を探し当てるために、ポンプの配管を取り外して詰まった箇所を探し出さなければなりません。これがどれほど大変な作業なのかは、そのポンプの距離が長かったり、高い場所で作業を行っていることを考えればおわかりいただけるでしょう。そんなポンプ中でのコンクリート詰まりを防ぐためには、「コンクリートを詰まりにくくする」=「流れやすくすると良い」ことになります。 そこで、水をたくさん加えれば良いのではないかという発想につながります。水を多めに加えたコンクリートは容易に型枠の隅々に行き渡ります。 …ここで、「あ、それいいな」と思ってしまったあなたは、これから述べる「加水」のワナに引っかかってしまったと言えましょう。 コンクリートの打設 |  | コンクリートはコンクリート配管によって作業箇所へ送られる。これを密実に詰め込むため、棒状のバイブレーターを用いて振動を与え、水の塊や大きな空気の泡が紛れ込むことを防ぐ。このコンクリート配管内でコンクリートが詰まれば、コンクリートは流れないということは容易におわかりいただけるであろう。 | 図:「コンクリートのはなし」より | | 加水。コンクリートが固まるために、水は絶対に必要なものです。これは、セメントは化学反応によって固まるためだから、というのは先にお話ししたとおりです。ですが、その量が多いと、コンクリート中の材料(セメント・砂・石)が分離してしまい、不均質なものになってしまいます。コンクリートの強度そのものが水とセメントを混ぜ合わせた比率によるという研究結果もあります(*5)。 コンクリートに重しを載せたまま時間が経過すると、コンクリートが変形してしまいます。しかし、その変形量もコンクリート中に水分が多いと大きくなります。 こうして出来た「コールドジョイント」という名の弱点に、最高時速300kmで走る新幹線の列車振動と走行時の空気圧変動(いわゆる「耳ツン」の原因)が繰り返し作用され、はく落につながったのではないか。−これが事故の最大の原因といわれています。 (*5) 加水を行うことで、コンクリートの内部構造が緻密ではなくなる。また、骨材表面に薄い水の膜ができることで、セメントと水が一体化しない。 | |